あなたの知らない若手社員のホンネ~ヘアメイクアース竹ノ塚店/横田朋美さん(23才、入社4年目)~
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様々な現場で働く若手社員を紹介するこの企画、今回は美容師だ。男女問わず美容室と美容師は身近な存在。馴染みのある職業の喜怒哀楽とは!? 若手美容師の目で紹介しよう。
シリーズ第58回 株式会社アースホールディングス ヘアメイクアース竹ノ塚店 美容師 横田朋美さん(23・入社4年目)。アースは美容室のチェーンだが、横田さんが働くのは、東武伊勢崎線竹ノ塚駅前から続く商店街の中の美容室である。
検定試験をクリアし、アシスタントからスタイリストという美容師に昇格した横田さん。髪型は人の印象の7割を決めるといわれる。女性客の髪型へのこだわりは強い。「任せてほしい」と、積極的に髪のスタイルを提案する彼女だが――
バックヤードの涙、でもそんな暇はない
「パーマを強めに、グルグルにかけて」そんなお客さんに、「それやめたほうがいいですよ」と、提案することもあります。髪が短くてボリュームを出したい人ならグルグルにかけても似合います。でも、髪の長さが肩ぐらいまでの人が強くパーマをかけると、髪が横に広がり顔が大きく見えておかしい。
「髪がもっと長くなって、パーマが横に広がらず下に落ちるようになると、グルグルのパーマも似合いますよ」と、お声がけします。
ごく稀にですが、これまでまったく意思が通じないお客さんもいました。
「私の言っていることが、この人では伝わらない。担当者を替えてください!」50代の女性の方に、そう言われたことがあります。当時はスタイリストになって間がなく、私の技量も足りなかった。
「全体の丸みは意識しないでいいから、たて長で毛先が細くなっているカットにしてほしい」お客さんの望みは、ハイレイヤーという名前の髪型で、高めの位置から段を入れるようにカットをする髪型ですが、当時の私はそれがうまくできなかった。髪型を提案するどころではなく、別のスタイリストに代わってもらって。
この時は一人、バックヤードで泣きましたね。先輩スタイリストの前で涙は見せたくない。営業時間中に「なんだ、できないの!?」みたいに言われるのは悔しい。その日、閉店してからマネキンを使い、ハイレイヤーのカットを練習して先輩に見てもらいましたが、その時は予約のお客さんが待っていました。バックヤードで、くよくよ泣いている暇なんかなかった。
私にまた、担当させてください
今、私を指名してくれるお客さんは150名ほどいます。多い時で指名のお客さんが1日20名ぐらい。徐々に私を指名してくださる方が増えたのですが、見習いの頃は洗髪やブローやカラーリングの時に、どんな話をしていいのか、会話がスムーズにできるようになるまで、時間がかかりました。
美容室では基本、政治やスポーツとか対立する話はご法度です。プロ野球を話題にしている時、「野球はどこの球団が好きなの?」と聞かれて、広島出身の私が「カープ」とか答える。お客さんが巨人ファンだった場合、私を嫌いになる一つの要素になります。
指名のお客さんになれば距離感も縮まり、意見が違ってもお客さんとの会話は盛り上がるのですが、どうすれば指名が取れるのか。
最初は聞き役ですが、だんだんお客さんの好みがわかってきます。例えば5月の連休明けの晴れた日、それまでスラックスで来店したお客さんがスカートを身につけている。
夏っぽくしているなー、今日は涼しげな髪型がいいかなーと、夏を意識して。髪に段を入れるようにカットして、髪を軽く見せるパーマも似合う。
美容師の中には仕上げの速さで、指名のお客さんを増やす人もいます。私は髪型が完成して店を出られる時に、名刺をお渡しして頭を下げ、
「また、私に担当させてください。お願いします」
と、お声がけをすることを大事にしています。そこまで言葉にするのは、やり過ぎだと思うのか、自分からそんなアピールをする美容師は少ないです。でも、気に入った髪型を提案し、会話も弾んで最後に、「またやらせてください」と言葉にするれば、お客さんも「じゃ、またお願いするわ」と、指名しやすくなると私は思っています。
足立区竹ノ塚の“カリスマ美容師”
「美容室といえば、表参道とか青山とか六本木とか、カリスマ美容師がいるようなところに行ったらいいんじゃないの」と専門学校時代、先生に言われたことがありました。「自分が輝けるかどうかは環境じゃない」とは、この店の責任者の言葉です。
「ヤッホー、トモちゃん」とか、私は“トモちゃん”と呼ばれていて。東武伊勢崎線竹ノ塚駅前の商店街の中にあるこの美容室には、買い物帰りの人や近くを通りがかった人とか、髪を切らなくても、いろんな人が立ち話をしに、お店に寄ってくれます。すれ違う人みんなが顔見知りのような庶民的な街が、私は好きです。
カリスマ美容師がハイライトを浴びる表参道や青山とかの美容室と、竹ノ塚の美容室とやっていることは同じです。そして、美容師ならこの仕事の醍醐味を知っています。
美容師の醍醐味——、それは結果がすぐに出るところ。だから、「今日の髪型がいままでの中で、一番気に入ったわ」お客さんのそんな声が、私は一番嬉しい。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama