1年以上続く「若手社員の本音」シリーズは、中間管理職が部下の若手社員を知る手助けになればという思いを込めた連載だったが、これは中間管理職本人の本音を紹介しようという新シリーズである。社内でも孤立しがちな中間管理職は、働く現場で何を考え、何に悩み、どんな術を講じているのだろうか。
シリーズ第2回は花王株式会社、コンシューマープロダクツ事業部門ビオレ事業部 ブランドマネージャー 畠山了樹さん(44)。ビオレは老若男女に対応したスキンケアブランドで、洗顔料からメイク落とし、化粧水等、豊富なアイテムがそろっているが、畠山さんと男性4名と女性3名、計7名の部下が担当するのは日焼け止めと、制汗剤等のデオドラントカテゴリーの商品である。
わかりやすさを実感するために部下たちが考えたこと
まず畠山は張りのある声で、今年2月に発売した製品を語る。「『アクアリッチ』は8年前に発売されたビオレのUV製品ですが今年、大幅にリニューアルしました。塗りムラを防ぎ、日に何度も塗り直しても、感動的に軽く気持ちよく使えて、紫外線はこれまでになくしっかりと防ぎます」
同時期に発売した『アスリズム』という新製品は、紫外線を防ぐキープ力が高い。日差しがきつい過酷な条件下で、スポーツ等、アクティブに活躍する人たちに向けた商品である。マーケティングは『アスリズム』にシフトした。担当した部下は男性2名。30代半ばと20代のコンビだ。
「どうやったらわかりやすく、興味を持ってもらえるか。お客さんにわかってもらうには目で見るばかりでなく、触ってなるほどと、実感してもらう方がいいと思うよ」畠山はそんなアドバイスを部下に伝えた。
セミナーを開き、技術的な背景を参加者に伝えたい。「従来の日焼け止めは肌の表面に塗っても小さな隙間ができて、そこから紫外線が通過したが、今回の新製品はその隙間を埋めることができた。それをどう伝えるかだ」「模型を作って可視化してみたらどうでしょう」20代の担当はフレッシュな視点で、誰にでもわかるような見せ方の提案をする。2名の部下は試行錯誤を繰り返し、従来のものと新製品のUVを塗った状態を再現した30cm×30cmの模型を制作した。
「従来製品の模型を通過した光が、モヤっとしていたら説得力がない」「小さな隙間から光が漏れていると、実感できるようにするには」「光源をもう少し強くして、光をシャープに見せたらどうだろう」30代の部下は視野が広いがアグレッシブで、熱中すると我を忘れたかのように、労を惜しまず頑張るところがある。そこは長所であり、ちょっとやり過ぎと感じる時もあるのだが。
「よく作ったね、面白いよ、わかりやすい」ブラシュアップし、出来上がった模型を見て、畠山は声を上げた。
スポーツ等、野外で長時間活動する女性を中心に集め開いたセミナーでは、制作した模型を持ち込んで効果を説明。実際に製品を試してもらい「すごい!」と評判を得た。
一方、制汗剤等のデオドラントの担当は、30代半ばと20代後半の男性だ。ブランド名は『ビオレZ』で、今年2月発売の新商品はさらさらフットクリームとディープクリアシート。20代の部下はアイデアを積極的に出していく。
新製品のパッケージデザインをどうするか。調査のために使ってもらった人の評価部位には、脇、耳裏、足裏、足の指の間とあった。さて、パッケージに入れる文言をどうするか。文字が多いと何が言いたいのかわかりづらくなる。プライオリティをどうつけるか。
「脇の制汗効果は他社の製品でも謳っていますよね。耳裏と足は新しい。これでいきましょう」「でも、パッケージに脇を入れないと、お客さんは脇には使えないデオドラント商品と思うことがあるよ。脇を明記することは絶対に必要だ。そう上でどうメリハリをつけるかだな」
先輩のアドバイスで、表記に強弱を付けたり、色分けを試みたり後輩は考えた。
オレも入社してしばらくは、こいつと同じで先輩にいろいろ宿題出されたよなー、後輩にアドバイスをしながら、30代の部下は自問自答しているに違いない、2人の部下を見ていて畠山はそう感じた。
部下のモチベーションを自発的に高める課長の考え
畠山本人もかつては、先輩の“宿題”で往生したことがあった。入社して6年ほど経て、営業の部署にいる時だった。仕事も覚え、自信も付いてきた当時、会議の後の懇親会の席で、彼はたまたま課長職である化粧品部門の女性ブランドマネージャーの側に座った。
気が大きくなった彼は、「新製品のパッケージデザイン、なんでこんなにダサイんですか。僕だったらもっといいものにできるし、面白いものができますよ」そんな感じで、大口を叩いてしまった。半年後の人事異動で、彼はその女性ブランドマネージャーの直属に、就くことになってしまったのだ。
「畠山さん、自分だったらもっといいもの、もっと面白いものができるといったよね。やってごらんなさい」そんな環境は、彼にとって猛烈なプレッシャーだった。
「この緑のパッケージを青くしたら、いいじゃないかと」「何で?」「め、目立つから…」「今まで使っていた人が、青だといいイメージを抱くとか、色を変えたことで今まで使ってなかった人のトライアルが取れそうとか。データを基づいた評価があるならまだしも、緑から青にする理由が目立つからって、あんた何考えてんの!?」とか、畠山曰く「ボコボコに指導されました」。
口先だけのヤツと、すぐに放り出されると思っていたが、持前の一生懸命さと明るさが幸いしたのか。その後も化粧品部門に在籍し、昨年ブランドマネージャーに昇進した。その間には管理職になった時に活かせる経験も積んでいる。
例えば、新製品のパッケージ案に意見を言った時のことだ。「キミの考えはどうでもいい。事前の調査結果で、これでいこうと決まったんだから、この通りやってください」先輩にそう言われたことがある。自分の意見を語っても聞く耳を持たない。自分は言われたことだけをやっていればいいだけのロボットかと、モチベーションが下がったことがあった。
「だから、例えば『パッケージに“最高クラスUV”と入れてね』とか、要点を伝え、後は部下に任せるようにしています。部下の自発性を大事にすることで部下が面白みを感じて、仕事に取り組んでくれたら。自分のアイデアが受け入れられた時の嬉しさ、楽しさを体験してくれたらと」
部下に任せることで、部下の仕事に対するモチベーションは、自発的に高まる、それが畠山の一つの考えだ。ところが、この会社の各事業部は生産、調査、広報、販売等、担当する製品にまつわるすべてのことに、コミットしていかなければならない。守備範囲が広い。部下も当然、得手不得手があるわけで、その辺りの事情は後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama