1年以上続く「若手社員の本音」シリーズは、中間管理職が部下の若手社員を知るための連載だったが、この企画は中間管理職本人がホンネを語る新シリーズである。社内でも孤立しがちな中間管理職は、働く現場で何を考え、何に悩み、どんな術を講じているのだろうか。
シリーズ第2回はアサヒビール株式会社 広域営業本部次長 高田豊さん(42)。彼が率いるのは営業企画グループ。部下は7名で、全員女性だ。広域営業本部には1〜4部まであり、全国系のスーパーやコンビニ等を中心とした量販店向けの営業を担う組織である。高田さんの営業企画グループは、この1~4部とは別に本部長直下で、広域営業本部の組織運営及び営業支援を行っている。
営業マンの役に立ちたい
直属の上司は広域営業本部の1〜4部を束ねる本部長。本部長は役員で会社全体の方針を考えるポジションにいる。そんな人と日々、接することは「まっ、楽しい職場です」と、彼は口元を崩す。
「業務は広域営業本部の組織運営、予算達成に向けての支援、売上げに対しての支援、本部内のコンプライアンスの遵守等、多岐に渡りますが、要は4つの営業部署が成果を出しやすいよう後方からのサポートすることです」
営業マンの役に立ちたい。それが高田と部下たちのスタンスだ。時には営業の人たちのミスをカバーしたりもする。例えば、ある量販店の受注を担当が200ケースとしたが、実は300ケースの間違いだった。ミスをした営業が得意先に謝ればいいのだが、そこを高田たちの部署がなんとかしましょうと。機転の利く部下が、「この商品100ケース出せますか?」とか、全国にある地区本部等に連絡を取ってミスをリカバーしたりもする。
高田も入社以来営業畑で、近畿地区を担当してきた。広域営業本部に異動したのは5年半前で、4営業部署の一つのコンビニ部隊にいた。今の部署は2年ほど前からだ。そんな彼はもとよりだが、部下たちも目標の数字を達成するために、しんどい思いをしている営業マンをよく理解し、アシストしたいという気持ちは強いという。
仕事は経験値がモノを言う
彼は働き方改革の一環として最近取り組んだ、業務の効率化の仕事を例に挙げる。これも本部長の発案だ。本部長と彼との間で「もっと営業が効率的になるようにできへんかな」「自分が言っても、変わるとは思えないと感じている人が多いと思います」「前からこうだから、こういうもんだと思ってるんやな」そんな会話がやりとりされた。
4営業部署の人間にヒアリングを行い、課題を拾い上げて報告書を作成する。それを広域営業本部のみならず、全国の営業の部署にフィードバックされれば効率化が進み、助かる人間がいっぱいいるはずだ。そんな高田の言葉に部下もうなずいた。
ヒアリングを担当したのは、彼と二人の部下だった。高田は言う。「仕事ができるかどうかは、経験値が大きいと思うんですよ。これまでの仕事の積み上げがものを言いうといいますか」
一人の部下は40代で、これまでに量販系の仕事や広報も経験している。「営業はできるだけ外に出て、お客さんと会う時間をより多く取れた方がいい」そんな本部長の考えに沿う形で、「お客さんと会う時間をより多く取り、なおかつ業務短縮に繋げるために、提案書や見積書を作る時間を30分短縮するにはどうしたらいいでしょうか?」等、部下は聞きたいポイントを絞り、話をまとめるのがうまかった。
営業が商談関連に使う資料を作成する時、社内の公式文章が検索しづらい。検索をかけた時、スーパードライでヒットするが、“SD”と打ち込んでもヒットしない。どちらを打ち込めばいいのか、社内でルールを決めてほしい。人によって資料の情報にばらつきがある。新商品関連はカテゴリーをまたぎ、発売日別に商品一覧を作り、その横に公式文書のリンクを貼りつけたものを作ってほしい等々。
ヒアリングで得た改善点の要望を、的確に報告書にまとめることができたのは、部下のおかげだ。部下はこれまでの経験によって得た蓄積があったからこそ、手際よくできたのだろうと高田は感じている。
「オレは性善説で考えたい」
だが、彼女は無理やり何かを通すようなタイプではない。多分、部下はそういう仕事をしてこなかったに違いない。人に少々強く響いても、自分の考えを積極的に口に出したり実行できたら、さらにこの部下は伸びると高田は感じている。その点、彼はけっこう本部長に意見に口を挟むこともあるという。
例えば、これも働き方改革に関してのことだが、「会社に行かずに取引先に直行します」とか「出社時間を遅らせます」とか、これまでの広域営業本部の決まりでは、スーパーフレックスは前日までの申請だった。基本的に朝9時に全員出社し得意先に向かった。だが「当日の朝に、『今日はスーパーフレックスにして、得意先に直行します』と連絡してきてもOKにしよやないか」と、本部長が提案した。確かにその方が効率的な時もある。しかし、高田は渋い顔で本部長に口を挟んだ。
「でも部長、そうするとモラル低下につながりませんか?」当たり前だが、酒造会社に就職する人間は酒好きが多い。前夜、つい飲み過ぎて「あーしんどい、今日は10時出社だとやっちゃう人がいるかもしれません」
彼は決して、自分のことを言っているのではない。高田のそんな意見に本部長は「オレは性善説で考えたい」と。「部長がそういうのなら、いいですけど」
スーパーフレックスは当日申請でもOKとルールは改まった。つい先日のことである。「お前のいいところは、上に媚びないことだよな」、部下の前で本部長からそんな声を掛けられた。彼としては内心、嬉しかった。
業務効率化のためのヒアリングを行ったもう一人の部下は、入社してから十数年、何かを取りまとめたり、自分の考えで何かを進めたりした体験がなかった。この先も与えられた仕事をこなし続けるのか。それとも自分が中心的な立場になり、仕事を進めていきたいのか。できれば後者になってもらえたら。高田は彼流のやり方で、部下にその自覚を促すように接していく。
後編では部下との接し方を通して、高田がサラリーマンとして、中間管理職として何を一番大切にしているかをあぶり出していく。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama