■あなたの知らない若手社員のホンネ~ エースコック株式会社/提坂緑郎さん(26才、入社3年目)~
若手の仕事へのモチベーションを理解することは、中間管理職にとって人間関係を円滑にするための必須条件となっている。20代にとっても同世代がどんな仕事に奮闘しているか、興味のあるところに違いない。この企画はバライティーに富んだ職種に従事する若手社員を紹介してきたが、シリーズ43回はカップ麺で僕らに馴染みがあるエースコック株式会社 関東信越支店 提坂緑郎さん(26)入社3年目。
大阪に本社を置く即席麺を製造・販売するエースコックは、2018年4月で創業70周年を迎えた老舗だ。発売30周年となる大盛りカップラーメンの先駆けの「スーパーカップシリーズ」や05年発売の「スープはるさめ」などベストセラー商品も多い。
東京、池袋にオフィスがある関東信越支店に営業として配属になった提坂さん、部署の先輩社員とその雰囲気は――
周りは一回りも上の先輩社員ばかり
“驚き”と“やりすぎ”をテーマに「鬼辛とんこつ醤油ラーメン」等、「EDGE」シリーズのカップ麺を販売したり、エースコックは独特な商品が多くてユニークな企業だ。楽しく働けそうだぞ。内定をもらった時はそんな思いを持ちました。
今の部署に配属されると、年の一番の近い先輩社員で35才。周りは営業歴十数年のベテラン社員ばかりで。世代のギャップもあるだろうし、果たして大先輩の中で、やっていけるのか不安もありました。
「提坂くん、キミな、外見を気にする前にまず、しっかり仕事を覚えなあかんぞ」
関西が本社の会社ですから、関西弁の先輩もけっこう多い。社会人になって服装にもこだわりたいと、営業として恥ずかしくない程度の色シャツを着て出社した時、先輩にそれとなく声をかけられまして。1年間、色シャツは自粛しました。
上下関係や仕事に関しては厳しい。反面、情に厚くて後輩の面倒見がいい。部署内にはそんな体育会系の雰囲気があります。身長184㎝の僕は、学生時代は運動部の活動をしていたように見られますが、実は体育会系の部活もサークルにも所属したことがありません。ですから、部署内の体育会系のノリに戸惑うところもありました。
1年目は担当を持たず、先輩社員の商談、得意先のお店の棚の陳列、見積り作成の補助が中心でした。見積書の作り方は先輩が丁寧に教えてくれたのですが、ある時のことです。僕がデスクで見積書を作っている時に、先輩が仕事のことで話しかけてきた。
僕は残業しないように作業を急いでいて、「そやろ、こやろ」と、先輩の指示にうなずきながら、見積書を作る手を止めなかったんです。すると、
「提坂、なんやお前、人が話をしている時に別な作業をするな、しっかり目を見て俺の話を聞け!」と。「す、すみません!」
「俺はそんなに怒ったつもりはないで」と、後日先輩は言っていましたが、関東の人間には関西弁がきつく聞こえますから。
「同じことを何度も言わせるな!」
見積書を作りはじめた頃は、自分の中で確認したつもりでも、誤字や脱字や数字の間違いがありました。
「オレが作ったほうが早い。お前の見積りを確認するほうが時間かかる。面倒臭いな」とか、言われたこともありました。
「そんなことを言うんなら、自分で作ったらいいじゃないですか」そう口に出して言える立場ではありませんが、イラッとしたこともありました。
でも振り返ると、強く言ってもらって有り難かった。見積書の数字は必要な金額や商品情報を意味します。例えば商品コードを間違えると、得意先に別の商品が手配されたり、お店に出すポップや価格表示が違ってしまったり。うちが赤字を負うことになってしまうケースも考えられます。
「同じことをなんでも言わせるなよ!」先輩から、そんなきつい言葉を投げられたこともありました。得意先によって見積りのフォーマットの書き方がそれぞれ違っていて、書き方は教えられたのですが、間違えたことを記入すると、後で先輩に手間を取らせることになる。
フォーマット通り見積書に書き込んだつもりでも、僕は記述に自信が持てなくて。「これで大丈夫ですかねぇ……」とか、隣の社員に何度も聞いてしまった。きつい言葉を投げられたのはそんな時でした。
「お前な、新人社員だから、教えてもらって当たり前だと思うなよ」これも先輩の言葉でした。
学生時代とは違う……、それは先輩の言葉から抱いた実感です。僕は学生時代、部活もサークルの経験もなかった。後輩の面倒を見たり、責任ある立場で判断することもなかった。でも社会人になって感じたのは、業務の一つ一つが会社のためにやっているということ。業務の責任は社員である僕が取らなければいけないということ。給料をもらっている以上、当然のことです。
甘えるな、いつまでも学生気分でいてはダメだ、先輩はそれをわからせるために、僕の胸に刺さるような言葉を投げたのでしょう。
確かに甘えていたな……。わからないことでも、まず自分でよく考える。どうしてもわからなかった時のみ、問題点を整理して聞く。そういう態度で仕事に取り組もうと、自分に言い聞かせました。
社会人としての考え方や一般常識、マナーや言葉遣い、教えられたことはそれだけではありません。社会人としてお酒の飲み方や、人との付き合い方も、年が一回りも違う、同じ部署の先輩社員に教わりました。
厳しいが人情味があり面倒見がいい。一回りも年上の先輩たちに揉まれ、一人前の社会人として、仕事の面白さを感じられるようになっていく。提坂さんの成長物語は後編、益々盛り上がっていく。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama