■あなたの知らない若手社員のホンネ~株式会社ローソン/岩山淳史さん(28才、入社6年目)~
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若手社員の仕事へのモチベーション、中間管理職にとってそれの熟知は、職場での人間関係を円滑にする秘訣だ。若手社員も同世代がどんな仕事に汗を流しているのか、興味のあるところに違いない。バライティーに富んだ職種を紹介してきたこの企画、今回はおなじみのあの店である。
シリーズ40回目は株式会社ローソン アジア・パシフィック事業本部 岩山淳史(28)入社6年目だ。ローソンは国内におよそ1万4000の店舗を展開するコンビニエンスストアである。
アジアと日本の架け橋になるような仕事を目指して入社した岩山さん、直営店の店員では女性パートさん、支店時代はスーパーバイザー(以下・SV)、FC店のナチュラルローソン時代は同僚の店員、仕事上でのコミュニケーションを模索し悪戦苦闘する岩山さん、彼の小売りの修行は店長へと進んでいく。
コミュニケーション不足での失敗を逆転
ナチュラルローソンには3ヶ月間勤務し、次は品川区内の直営店の店長に配属されました。店長は売上げの管理や発注、面接してクルーを採用したり育てたり。業務が増えて、指示を受ける側から指示する立場になったのです。
まず感じたことは、店舗のクルーの有り難さですね。クリスマスとか正月とか、店に出てくれるクルーは貴重で、大晦日に年が替わる時間帯に入ってくれる夜勤さんとかは、本当に有り難い。
感謝の思いを伝えなければいけないと思いました。メッセージカードに「いつもありがとうございます。助かっています」と一筆書き添え、クルーの名札にそれとなく挟んだり。僕の代わりに消耗品の発注をしてくれたら、「有り難かったです。その時間を使って別の仕事ができました」と。人が足りない時に、協力して店に入ってくれたクルーには、「助かりました」と、缶コーヒーに感謝の言葉を添えたり。
日頃から具体的に感謝の言葉を表す、このことに心がけ続けると、クルーとの人間関係の距離感が近づいたといいますか。「棚がきれいに見せるように整えようね」とか、「値札は左端に付けるのがルールですよ」とか、僕の注意の言葉もクルーはちゃんと聞いてくれまして。
人のことを考えるという、これまでコミュニケーション不足で失敗したことが、店長になって生きているという実感を徐々に持つことができましたね。
実は配属された直営店は、前年比で80〜90%と2年連続で売上げが低迷していて、店長として着任した時から「閉店するお店です」と、本部から伝えられていました。
なんとかならないか……。オフィスビルの一階にある店舗だったのですが、そのビルは女性の働く比率が高い。以前、勤務したナチュラルローソンのコンセプトを応用することはできないか。
ふつうのローソンなら、新商品を棚に目立つようにして並べますが、女性は商品を手に取り裏の文字をよく読んで購入する人が多い。いかに商品の価値を伝えられるかが大事で。ナチュラルローソンのように、光沢のある布の上に商品を並べたり、棚の最上段を黒い布にして商品を斜めに陳列したり、工夫はできるはずだ。
店で採用する商品は、男女別年代別にターゲットがわかるようになっています。例えば健康志向にヒットする、野菜ジュースでもグリーンスムージーや、女性はチョコレートが好きですが、フランス製の小サイズの高級なものとか。女性の心に刺さる品揃えを心がけて。
ポップも大事です。新潟限定のスイーツを棚に並べた時は「このデザートは店長が新潟出身の親戚を訪ねた時によく買います。それがここで食べられるなんて、私も5個買っちゃいました(笑)」お客さんの心の距離感に、近づく工夫もしました。
その結果、売上げが前年比の110%まで伸びまして、閉店するはずだったその店舗はナチュラルローソンとして残ったんです。
コンビニの店舗作りを通して学んだこと
品川区内の店舗の店長を1年弱やりまして、支店でアシスタントSVを半年間経験すると、今度はスーパーバイザー(以下・SV)として配属されました。SVはおよそ9店舗のFC店を担当し、損益計算書やバランスシート等のデータに基づき、店の状況を分析し、いろんなアドバイスをして、店の売上げと利益が伸びるよう指導するのが仕事です。
僕が担当を引き継いだ東京の下町のある店舗は、オーナーさんが体調を崩し店に出られなくなって店長も辞めてしまい、若いクルーが必死に店を回していた。オーナーが店に入れないので人件費がかさみ、苦しい経営が続いている。別のオーナーさんへの交代が決まっていて、それまでの間、なんとか持ちこたえようと僕がある程度、店長業務をこなしていました。
そんなある日、クルーが足りない時間帯にネットで募集し、僕と同じ歳ぐらいの男性を採用した。その彼が将来的に独立したい考えを持っていたんです。そこでこの店の事情を話し、「店長業務に挑戦してみませんか」と提案したら、本人もやってみたいと。そこで、これまで僕が経験した店長業務を教え込みました。
発注、品揃えの決め方、周りの競合店を調べ、自分の店の強みと弱みを意識して、本部のデータから客層を考えて。
「競合店と比べ棚の本数はうちが多いけど、駅からの導線は競合店のほうが有利だね」
「競合店を越えて、うちにお客さんが来る何かが必要ですね」店長代理と、そんな話し合いを重ねて。
「近くの酒屋は夕方には閉まる。そこからが勝負だ。酒の棚を3本から4本にして種類を増やそう。酒のつまみ類や、からあげクン等のファストフードも増やそうじゃないか」そんな提案が功を奏したんです。
売上げがアップした。すると、みんな一丸となってやっていこうと、店の雰囲気も良くなる。お客さんとクルーとのコミュニケーションが、密な下町の店舗ですから。クリスマスケーキの販売の時は、高校生クルーと店長代理が頑張り、店の向かいの新聞販売店の人たちとも、仲良くなって買ってもらって。地域の100店の中で第1位に輝いたんですよ。
コンビニの店舗作りを通して、日本とアジアの国々とのより良い関係作りに貢献したい。そんな入社当時の目標に、近づけそうな今の部署に異動したのは1年ほど前でした。担当はタイ、フィリピン、インドネシア、ハワイ。コンビニエンスストアはこれからの地域です。
インフラが整っていないし、日本のマニュアルは通用しない。ファストフードはあらかじめ揚げる時間を決めておこうとか、レジカウンターの下のレジ袋の位置とか、レジ内の紙幣はグチャグチャにせず、きちんと分けようとか。各国共通で教えられる教科書的なツールを作っているところです。現地のパートナー企業と一緒に発展していこうと。
ところで高校時代から関心がある中国ですが、ローソンはすでに1700店舗以上進出している。中国は顔認証や無人店舗、携帯のバーコードを使っての支払い等、新しい形が次々に生まれています。あの国は一党独裁の体制ですから、やろうと思ったことはすぐに法整備が進む。
次の小売の画期的なスタイルは、中国から生まれると僕は思っています。そんなシーンに立ち会ってみたい。ようやく自分の思いを現実的に語れるようになってきました。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama