あなたの知らない若手社員のホンネ~ヤマハ発動機/石田大樹さん(25才、入社4年目)~
中間管理職にとって20代とうまくやるには、彼らの仕事へのモチベーションを理解することが必要だ。とはいうものの「うちは静岡の磐田市に本社がある田舎の会社でのんびりしていますから」と、石田大樹さん。おっとりした社風で、上司や同僚に対してプレッシャーの類はほとんどないと言いたげ。資本金857億97百万円、2017年度の2017年12月期の連結決算が1兆6,701億円。外資系企業とは真逆にある典型的な日本の大企業の一つなのかもしれない。
第22回目はヤマハ発動機株式会社 企画・財務本部 コーポレートコミュニケーション部 広報グループ 石田大樹さん(25才)入社4年目である。
■配属は広報グループ、広報と宣伝の違い
メーカー志望だった僕は趣味がバイクなので、この会社を志望したんですが、内定が決まってみると、
「ヤマハって、あー音楽教室の会社ね、石田くん、ピアノとか楽器が上手いんだ」とか、知り合いに言われまして。80年代の初頭のバイクブームの時と比べて、日本の大型中型バイクは10分の1に減ったと言われ、それに比例するように、うちの会社の認知度が下がったのでしょうか。それが悔しかった。会社のブランド認知の向上に貢献したいと。
「僕は広報を希望します」と、研修の配属面談の第一志望に広報を上げたんです。すると、すんなり配属が決まりました。
宣伝と広報の違いは、宣伝はお金を使い、CMや広告で自社の製品をアピールする。広報は基本的にお金を使わずに自社の情報をメディアにリリースして、メディアが報道に値する情報と判断すれば取り上げてもらう。
メディアにとって価値のある情報を提供し、それが報道されれば、うちも多くの人に会社のことを伝えることができる。メディアと広報はウィンウィンの関係、それが理想です。
僕は浜松のメディア担当で、定期的に会社の情報を地元の静岡新聞や、地元のラジオやテレビ局、大手新聞の静岡支社や浜松支局にリリースするのが仕事です。またブロガーとのコミュニケーョンも担当しています。広報マンはいろんな部署を経験し、広報担当に配属されるケースが多いのですが、僕は入社してすぐに広報グループに配属されまして。当初は広報マンとして必要な会社の情報量が、圧倒的に少なかった。
定期的にFAXや記者会見で情報をリリースするのですが、ある記者会見の席でのことです。2014年発売した3輪バイクのトリシティの記者発表の時、社長が3輪バイクに乗って、登場する演出があったのですが、「あの時の社長がバイクに乗っている映像はありますか」と、記者さんに聞かれました。
何を言っているんだろう、社長が記者発表の席でバイクに乗るわけがない……。大きなイベントだったのですが、僕は当時の社長のサプライズ演出のことを知らなくて。「世界初の3輪バイクを開発した意義をどう答えていましたか」という質問にも、社長が何を語ったか把握できてない。その場では答えることができず、後でフォローする形をとりました。
失敗談はまだまだあって。例えば本決算発表の記者会見でのこと。「先進国の二輪車の売上げの数字は前年比でマイナスになっているけどその原因は?」と質疑応答の時に聞かれても、うまく返答できない。資料を読んで勉強しましたから、原因は為替の影響が大きいことはわかります。しかし、来年も先進国への二輪車の輸出はマイナスを見込んでいるが、一方でマリンの船舶の売上げは、プラスを見込んでいる。
「マリンは為替の影響があるのに増益している理由は?」と、記者さんの質問に答えることができず、同席した財務の担当者が「昨年は会計上、一時的なズレがありましたが、今年はそれがないために、この数字になりました」と、助け舟を出してくれました。
■原稿チェックは筋違い
「記者さんは具体的な数字を上げると、興味を示すよ」
それは上司のアドバイスでした。そこで、本社に隣接する企業ミュージアムの累計入場者数が、200万人を達成したニュースリリースを出した時に、サブタイトルに“100万人を達成してから6年間で200万人達成!”と謳ったんです。記者は興味を持ってくれるかなと思ったら、
「広報さん、これ6年じゃなくて、7年じゃないの」と指摘をされまして。記者さんの方が僕よりも詳しい。
「あっ、申し訳ありません」慌ててその場でプレスリリースを訂正したんですが、直ちに間違いの詳細は、上司に報告しました。
「今度からちゃんとしっかりチェックして、気をつけるように」僕の父親ぐらいの年代の穏やかな上司は、あまり厳しく言う人ではありません。
でも一度だけ、長年広報マンとして経験を積んでいる上司に、いささか強い口調で諭された言葉は今も心に残っています。それは雑誌社からの電話取材を受けた時でした。
「記事ができたら見せてください」取材が終わって、何気なく僕が言ったことを上司は耳に挟んだんです。
「石田くん、広報マンとして、それをメディアに言ってはダメだ」
うちがお金を払うピーアールやタイアップでない限り、“原稿を事前に見せてくれ”はご法度だと。
「うち発表や提供した情報に基づいてメディアが書くのだから、うちが原稿をチェックするのは筋違いだ。そういうことをメディアに要求すると、ヤマハの広報マンの質が問われる」
発表したり提供した資料に基づき、良きも悪しきも受け取ったように書いてもらう。それによって宣伝やピーアールでは表現できない、うちの会社の真の価値や社会的な役割が、自ずと社会に伝わっていく。
広報マンの仕事を通して上司の言葉の背景にある、そんな意味が徐々に理解できるようなると、自分の勉強不足と未熟さを実感しました。
筆者の個人的な思いを言えば、ヤマハ発動機の広報グループの上司の言葉を、日本中の広報マンは反芻してもらいたいとも感じるのだが。
広報マンとして失敗続きの石田さんだが、ホームランをかっ飛ばすような成功談は後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama