※この記事は@DIMEに2017.10.24に掲載された記事を転載したものです
AIを使った音声対応システムを開発するベンチャーNextremer(ネクストリーマー)。音声認識システムのトレンドに乗り、ここ2年ほどで社員数が3名ほどから55名に急成長した。開発拠点のラボは高知市内にある。現在、自社開発のプラットホームの導入や、共同開発など取引のある企業は約100社。この夏、鎧をまとった自社開発の「AI-Samurai」が1ヶ月間、東武鉄道浅草駅のツーリストインフォメーションに登場。鎧姿の武士の音声案内は外国人に大ウケした。
●音声対話システムとの出会い
代表取締役CEOは向井永浩(むかい・ひさひろ・40才)、岐阜県中津川市出身。金沢大卒後、大手電機メーカーにSEとして入社したが、外国企業で働きたいと28才で転職。シンガポールの企業に勤務し、日本法人を担当したが、リーマンショックで首切りの憂き目に。これを機会に個人事業主になろうと、2012年10月資本金100万円でNextremerを設立。
「社名はエクストリーム(過激な)とネクスト(次に)を合わせた造語です」(向井)
会社を作ったのだから、事業を興さなければならない。さて何をやるか。
「知り合いの会社でIT開発を手伝ったり、ジャカルタのテレビ局の通訳もやったな」
東京・成増の雑居ビルの中にある本社オフィスの会議室で、対座した向井のどこかぶっきらぼうな語り口調から、長身のこの男の照れ性が伝わってくる。
「ある時、自動車会社の音声対話システム開発の仕事に関わりまして。ナビゲーションはもちろんですが、音声対話システムは自動運転技術の中に様々な用途で使われますから」
そんな時、現在Nextremerで技術部門を統括する興梠敬典(ころき・たかのり・30才)と、共通の友人を介して出会った。2014年の秋、初対面は大手町のオフィス街地下の喫茶店だった。当時、興梠はIT企業のSEだった。
●アパホテルの女性社長
「この間、自動車会社の研究施設で音声システムの開発を手伝ったんだけど面白かった」
向井は早速、興梠に音声対話システムについて話を向けた。
「話しかけたらコンピュータがそれを認識して言葉で応えるってすごい。音声対話システムは人間的というか、温もりを感じるというかな、こちらの問いかけに応えられなかったりするファジーさも魅力だね」
「高齢化が加速する中で、キーボードやパネルの操作がいらない音声対話システムは有望ですね。体の不自由な人にも優しいし」
「車は音声システムの用途はたくさんあるけど」
「車だけに限りませんよ、向井さん。スマホに次ぐデバイスに成長するかもしれない」
「自動車メーカーとか大きな会社は研究開発しても、製品されるまでほど遠い」
「ソフトウェアを開発し製品化していくのは、何と言っても小回りがきくベンチャーですよ」
向井と興梠の話は盛り上がった。
「まず音声システムのニーズがあるところに突っ込んで行こう」
「ホテルのフロント係なんかいいんじゃないですか。聞くことが決まっているし」
「『予約ありますか』『何泊ですか』『シングルですかダブルですか』等、聞くことが少なくて済むから、音声システムを使うのに適しているな」
だが、単にAIを使った音声対話システムのフロント係ではインパクトが薄い。フロント係に何か強烈な特徴がなければ面白くない。
「テレビでおなじみのアパホテルの女性社長をモデルにしたフロント係が、音声対話システムでしゃべるというのはどうかな」
どちらからともなく、そんなアイデアが口をついたのは、向井と興梠が何回か話し合いを重ねた末のことであった。
●仕組み
まず作ってみよう。15年4月に興梠がNextremerに入社すると開発は加速する。出展は16年5月に開催される世界的なベンチャーの祭典、「SLUSH ASIA(スラッシュ アジア)」と定めた。
音声で応えるフロント係の仕組みは、音声認識テクノロジーで人の会話をテキスト化し、チャットポットに入れ、返ってきたテキストを音声合成させる。音声認識のハードウェアは大企業が開発したものだが、AIを使い、テキスト化したものをチャットポットに通して回答を引き出し、それを音声合成する、その過程のエンジンは自社開発である。
質問に対する音声対応を200パターンほど用意した。モニターの中でしゃべるアパ社長の姿をそれらしく見せる点等、複雑なプログラムを仕上げていった。アパホテル女性社長がフロント係としてしゃべる音声対話システムは、イベント4日前にアパホテルの許可を得て出展に漕ぎ着けたのである。
そして迎えたイベント当日、その結果は次回にて。
2017.10.24更新