上からの指示も去ることながら、部下を育てなければならない立場の中間管理職。その苦労はなかなか人には分かってはもらえないし、気安く愚痴をこぼすのも難しい。そんな課長たちは働く現場で何を考え、どんな術を講じているのか。課長さんの話に耳を傾ける。
シリーズ第16回は旅行会社の株式会社JTB 営業第四課長 高橋要さん(40)。東京中央支店に勤務する高橋さんの仕事は法人営業。「ルックJTB」等のパックツアーと異なり、法人向けに顧客の要望に応じて、職場旅行や報奨旅行等を企画したり、顧客のニーズに応じた団体ツアーを提供している。現在、彼の部下はリーダー3名を含め24名だ。
旅行にはそれぞれ目的がある
学生時代に欧州を旅行した体験が、旅行会社への就職志向になった。配属は吉祥寺支店、入社当初から法人営業だった。
時には1000人を超える団体客の宿泊施設や交通手段等を手配するが、「旅を通して寝食を共にすると、お客様とお互いに心もオープンになって」企業の担当者から内情を聞くことができる。顧客からの要望だけでなく、それらをキャッチし、いろんな形のトラベルをお客に提供する。
企画したツアーの添乗員としてハワイには数十回は訪れたが、ホテルからまったく出られないこともあった。旅行にはそれぞれ目的がある。その目的をより良い形で叶えるための手続きを、部屋に詰めてしなければならない時もあるからだ。
ある会社のインセンティブ旅行でハワイを訪れた時は、客室にアロハシャツや社長からのメッセージカード、家族へのサプライズプレゼントも用意した。旅の目的以上のサプライズ感に満足してもらえたのか。表彰式の終了後に、「まだ一つ、表彰できてないものがあります」と、添乗員の高橋が前に招かれ、お客に胴上げされたことがあった。
またある時は、製薬会社の新商品の発表会を兼ねた旅行で、イベントの最中に会場の照明が落ちてしまった。「せっかくの発表会が台無しだ!!」と、担当者からお大目玉を食らったこともある。この仕事はお客からの感謝と叱責が多いのだ。
部下を褒めて伸ばす、だが…
グループリーダーとして部下を持ったのは、30才になる前で、自分の力で数字を挙げ、強いチームにしようと意気込んだが、やがてリーダーは人材育成が大切だと気づく。そのためにまず、メンバーの強みを引き出す。
部下の一人は盛り上げ役として買われていたが、営業はイマイチとチームの周囲には見られていた。「明るさがキミのいいところだね」高橋はまずその部下の強みを褒めた。彼にはタレントのファンクラブサービスのツアーに携わらせた。
「旅には目的というゴールがある。そのゴールをいかに充実したものにするか。当たり前のことをしても競合に勝てない」
「差別化をするためにどうすれば…」
「キミは周りを楽しませるのがうまい。それを活かしてみたらどうか。顧客の立ち位置で考えるといい」
「お客様にヒアリングをしてみます」
お客はサプライズを期待している。お客の話に耳を傾けた彼は、朝はバスに乗っていなかったタレントが、昼にガイドの姿で現れるサプライズを考えた。昼にファンが体験し各々が作ったキャンドルを夜の懇親会で見せ合い、タレントが笑いを交え評価したり。それらはこれまでにないアイデアだった。
「部下を褒めて伸ばすことが、大事だと知りました」という高橋だが、もう少し部下に厳しく接することも、必要だったなと感じている。
旅行会社の仕事は営業、お客からのヒアリング、要望に応じたツアーの提供と添乗、ツアー終了後に精算と旅の精査をして次につなげる。それが大まかな流れだが、例えば宿泊先や使用した施設の精算が遅れたりとか。どれか一つでも滞ると、信頼を失い次の仕事を逃すことにつながりかねない。
旅行業に限らずどの仕事でも、積み上げた実績の上に次の仕事が付いてくるわけで、信頼を失い積み上げたものが崩れたら、また一からやり直さなければならない。部下たちは同時にいくつものツアーを手がけるが、信頼を失いかねない案件には、厳しい口調で諭さなければならない。だが、多く管理職がそうであるように、高橋も強い口調の叱咤が得意ではない。“いい人”なのだ。