あなたの知らない若手社員のホンネ~ヘアメイクアース竹ノ塚店・美容師/横田朋美さん(23才、入社4年目)~
様々な現場で働く若手社員を紹介するこの企画、今回登場するのは美容師だ。女性はもちろん、男性も髪をカットするため美容院を訪れる。私たちに馴染みのある美容師の仕事の喜怒哀楽を、若手美容師の目で紹介しよう。
シリーズ第58回 株式会社アースホールディングス ヘアメイクアース竹ノ塚店 美容師 横田朋美さん(23・入社4年目)。チェーン展開するアースの美容室は全国に約250店舗あるが、横田さんが働くのは東武伊勢崎線竹ノ塚駅から続く、商店街の中の美容室である。
人はそれぞれ違う、マニュアルはない
出身は広島県です。美容師になろうと思ったのは小学2年の時。母に「髪をきれいにして」と頼んだら、「お母さん、三つ編みができない」と言われて。幼心に自分の子供は可愛くしてあげたいなと、思ったのがきっかけでした。
建築士の父は大学に行ってほしかったでしょうけど、「自分で決めたんなら頑張れよ」と。18才の時に憧れていた東京の美容専門学校に入学をして。上京したからには親を頼らず自分でやっていこうと、仕送りをもらわず奨学金の他に、この会社の別の美容室で週に4、5回アルバイトをしました。
美容師の仕事はスタイリストといって一人前の美容師と、見習いのアシスタントに分かれます。2年間の専門学校を経て国家試験を受け、美容師資格を取得するのとは別に、社内には独自の検定試験があります。洗髪、ブロー、カラーリング等々、検定試験は30項目ほどあり、教えた通りできているか、そのお店のスタイリストの人たちが合否の判断をします。
洗髪なら首を濡らさず、耳に水が入らないよう細心の注意をして、頭の形に自分の手をフィットさせ、細やかに両手を動かす。ブローも簡単ではありません。ドライヤーを近づけ過ぎないように気を配り、耳の後ろや首の後ろは乾きにくいので先に風を当てる。毛の根元を立ち上げながら毛先に風を入れる。
「頭の形も髪質も同じ事例はない。人はそれぞれ違う、マニュアルはない」と、店長には教えられました。
髪型のイメージが何より大切
よく泣きましたね。検定試験で合格の時も不合格の時も、私は嬉しくても悲しくても涙が出てしまう。
お客さんの前ではいつも笑顔ですが、アシスタント時代に洗髪やブローをしている時、スタイリストの人から「ありがとうございました!」と明るく声をかけられると、“あーダメ、もういい、あっち行きなさい”の合図です。
早くスタイリストになりたかった。学校を出て美容師の国家資格を取ると、それまでのアシスタント時代に、半分ほど検定の項目に合格をもらっていたこの会社に就職を決めて。
美容師は何よりカットの腕が問われます。パーマをかけるにしてもベースになるのは、すべてカット。私はそれこそ、ナンパをするように街で声をかけてモデルを探しました。スタイリストとして認められる検定試験では、モデルの長い髪をバッサリと切りショートヘアにして。
スタイリストになったのは2年前の秋でした。
女性と男性のお客さんの比率は6対4です。竹ノ塚店は30〜50代の方が多いのですが、男性のお客さんのベースはだいたい月1回、伸びた髪をカットする方がほとんどです。
女性は半年に1回、長いお客さんで1年に1回来店する方もいます。カットにパーマ、トリートメント、カラー等に指名料を含めると、1万円を超えることもあります。頻繁に来店はできない。だから来店した時は自分へのご褒美で、ワクワク感を求めている。女性のお客さんは、男性に比べてこだわりが強い。
「今日は思い切り短くしに来たの。耳が全部出るくらいショートカットにしてください」
「でも、耳を出すのはお勧めしません。残しておりたほうがいいですよ」
お客さんが後悔しないためにも、私は最初にしっかりと提案をします。美容師はまず、その人に合った髪型をイメージすることが大切で。ショートが似合うのは顔が小さくて首が長い人、首が短い人がショートにすると顔が埋もれてしまう。また、丸顔の人は前髪があったほうが似合います。
私に任せてください
「でも、私今日は耳を出しに来たの!」
「やめておりたほうがいいです。耳を全部出さない形でショートカットにしましょう」
耳が出るまで髪をカットして、後で「似合わない」とクレームを持ち込まれた場合、「お客さんがこうしたいと言ったから」とは言えません。髪を切ったのは私ですから、ただひたすら謝ります。返金も考えなければいけません。
「お友達に、やっぱり耳を出したほうがいいねと言われたら、1週間以内にお電話ください。無料でカットします」カットしてしまったらどうしようもありませんが、ある髪を切ることはできます。
「そう言うのなら……」
「私に任せてください」
後で電話をかけてくるお客さんは、ほとんどいません。カットした髪が人から「似合うね」と、みんなに言われている、私は常にそう思っています。
人の印象の7割は髪型が決めると、専門学校でもアシスタント時代も教えられています。髪型が決まってないと、外に出たくない。逆に髪のスタイルに自信がもてれば、“私を見て!”という感じで、表情も生き生きして性格も明るくなれます。
そんな人の性格にも直結する髪型を担っているからこそ、笑顔でハサミを握れる反面、時には泣かされる出来事もある。笑顔と涙のエピソードは後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama