■あなたの知らない若手社員のホンネ~ 小田急電鉄株式会社/村田友美さん(27才、入社5年目)~
いろいろな職種で奮闘する若手社員を紹介しているこの企画。中間管理職には若手社員を見直すきっかけに。若手には同世代がどんな仕事に日々、従事しているのか、知りたいところであろう。今回は女性駅員を紹介する。
シリーズ52回、小田急電鉄株式会社 成城学園前管区サービス係(3月まで本厚木駅で勤務) 村田友美さん(27・入社5年目)。小田急線の駅のホームに立つ駅員である。袖すり合うのも何かの縁というが、毎日数万人の乗降客と接している。駅員に何か失敗があったら、新聞ネタになりかねない。乗降客の安心安全が第一の職場だ。
分岐の駅でてんやわんやに
私の実家は小田原で、小田急線は物心ついた時から馴染んできた電車です。会社説明会では駅員、運転士、整備士、運行管理の人、保線の整備の人等々、多くの人の支えで電車は365日、規則正しく運行していると、認識を新たにしました。
駅の業務は男性も女性も、基本は24時間勤務で、朝の9時半から翌朝の9時半までです。例えば本厚木駅の前に勤務していた海老名駅は、途中休憩があり、早番は夜10時に上がって宿泊所で仮眠をとり、始発からの勤務。遅番は終電を出して仮眠をして、ラッシュの時間帯からの勤務となります。だいたい月の半分は駅の宿泊所に泊まりますね。ちなみに同僚同士、一緒にいる時間が長いからでしょうか。私の夫も小田急線の駅員ですし、職場の女性は社内結婚が多いです。
駅務に採用され、最初の配属は相模大野駅でした。相模大野は江ノ島線と小田原線の分岐の駅です。次の電車は接続を取るのかそうでないのか、ダイヤグラムを開き確認して。新米の頃はダイヤを読むのに必死で、その上に耳に当てた携帯のイヤホンからは、司令所からの情報が流れてきます。例えば「ただいま、◯◯駅で安全確認をしています。電車が遅れて申し訳ありません」とか、司令所から受け取った情報をアナウンスします。
接続があるのかないのか、司令所の情報をどうアナウンスするか。分岐駅なのでお客さんからのお問い合わせも多く、「駅員さん、本厚木はどっちに乗ればいいんですか」とか聞かれ、それにもお答えをして。新米の頃は頭の中が、てんやわんやになることもありました。
まず、大切なことをお客さんに伝える
もちろん1ヶ月ほどの研修期間は、先輩が私に付きっ切りで指導してくれました。「声を出して動きを身体で覚えなさい」という指導なので、「出発進行!」と大きな声を出し、時計を指差して、「時間よし!」とか。
ホームで私は、何気なく線路側に体重がかかった立ち方をしていた。すると「何かの拍子で押されたら、線路に落ちるかもしれない。常に線路と反対側に重心を置きなさい」と、指導されたこともありました。
これも研修期間のことでしたが、大雨で雨量計が規定値を超えたので、速度を落として運行していると司令所から連絡が入った。この情報をアナウンスしなければならない。
雨量計…、規定値…、どうアナウンスをすればいいんだろう。「あのう、湘南台はどっちに乗ったらいいの?」とか、お客さんの言葉にも対応もしていると、「到着する電車が来ていないのに、なんで放送しないの!?」先輩から強い調子で声をかけられて。「大雨のため遅れております。お急ぎのところ申し訳ありません」と、とっさに先輩がアナウンスをしてくれました。
そうだよね、お客さんに雨量計とか規定値とか言わなくてもいい。大切なことをまず伝えると、気付いたこともありました。
仕事のコツも教えられました。例えばラッシュ時にカバンがドアには挟まった時、「ドアを再度開けてください」車掌に合図をすると、お客さんが次々に乗ってきて、電車が遅れてしまう。そういう場合は基本的に駅員がカバンを車内に押し込む。
制服姿でホームに立てばテキパキと
一人立ちをすると、駅でのアクシデントのとっさの判断は、私がしなければなりません。「どこに非常ボタンがあるか、把握してホームに立て」と教えられています。
例えば「大変だ。男性がホームに落ちた!」そんな声を聞いた場合は、とっさにホームの非常ボタンを押す。周辺を走行中の小田急線の電車が自動的に止まります。「ふらふらして線路に落ちそうな人を発見したら、ちゅうちょなくボタンを押すこと」そう教育されていますから。非常ボタンを押すのは、お酒に酔ったお客さんが多い夜の時間帯が多くなります。
事故を未然に防ぐことを常に心がけるのも、私たちの仕事です。例えば人身事故の事例には立ち会ったことはありませんが、挙動不審の状態を知っておくために、ビデオで不審者の様子を見たこともあります。そんな経験を通して、お客さんの命を守らなければいけない仕事だと、ホームに立つ時は強く感じました。
「オ、オレ腹痛い」「えっ、また途中下車?」新米の頃は、小田原在住の同期の社員と出勤時に乗り合わせると、よくそんなことがあって。かくいう私も勤務する相模大野駅に着くと、「あっヤバイ…」とトイレに(笑)。仕事の責任の重たさにプレッシャーを感じていたのでしょう。
でも、もう大丈夫。勤務を重ねるうちに制服姿でいると、責任感を抱く自分を意識するようになりました。例えば階段を踏み外し頭から血を流している、そんなアクシデントに見舞われたお客さんには、応急処置をして救急車を呼んで。血を見てもパニックに陥ることなくテキパキと。
勤務に対する責任の重たさよりも、どちらかというとお客さんに強い口調で言われるほうが、プレッシャーを感じることが……。
「何で電車を発車させたんだよ。10時50分発なのに、ドアが閉まるのが早いじゃねえか!?」駆け込み乗車に失敗したお客さんから、そう詰め寄られた時には――
さて、なんと対応するのだろうか。アクシデントで電車がストップし、何人もの乗客に詰め寄られる時もある。“駅員はつらいよ”という場面だが、そんな時はどう対処するのか。詳しいエピソードは後半で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama