日々急速に加速するIT化、そしてAI技術の進化。その発展の裏には新たなフィールドに金脈を見出した起業家たちがいる。彼らは金脈を掘り進むように、ベンチャー企業を創業しているが、掘り当てたものは近い将来、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めている。この企画はIT・AI分野の金脈掘削人に、掘り当てた“お宝”は何か。それが近未来の私たちの生活を、どう変えようとしているのかを訊く。
第1回は株式会社オープンエイト。代表取締役社長兼CEOは高松雄康。5G普及を目前に控え、スマホの動画広告にいち早く注目し、2015年4月に創業。調達した資金は総額約40億円。「今期の売上げは二桁億までいってます」(高松)。
この項、最終回の第3話は高松が掘り当てた“金脈”が、近未来にどんな化け方をするのかに及ぶ。
もともとやりたかったコンテンツビジネスへ
高松は博報堂を退職後、美容系の口コミサイト、@cosme(アットコスメ)を運営するアイスタイルの役員に。12年11月に東京証券取引所市場第一部へ市場変更。起業は40才過ぎてからだった。
「動画×広告」を視野に配信プラットホームを立ち上げ、既存の企業CMを配信で売り上げを順調に伸ばしていったが、それは序章に過ぎなかった。高松は動画CMのマーケティング市場に狙いを定め、矢継ぎ早に二の矢三の矢を放っていく。
「うちにテレビCMを預けてくれたら、有名なサイトに動画広告を流せますよ」創業したばかりのオープンエイトのそんなセールストークに、企業は関心を示した。スマホの動画広告のポテンシャルに各企業は気づいている。だが、成人向けのサイトや社会的に好ましくないサイト、また、広告費の詐欺サイトに自社CMを流されては困る。
「うちはスマホで動画CMを流せる、信頼できるプラットホームを作ったんです」そんな言葉は企業には魅力的だった。高松は女性向けスマートフォン動画マーケティングプラットホーム、「OPEN8 AD Platform」を開発。会社立ち上げとほぼ同時に配信サービスを開始し、実績を作っていた。企業からの出稿料は、サイトの運営者と自社で分配する。
「でも、僕がもともとやりたかったのは、コンテンツビジネスなんです」
――オリジナルの著作物を作り、それを打って稼ぐということ?
「動画を見たユーザーがやってみたいという気持ちにさせるには、コンテンツをやらないと。第一、安く大量に動画を作れないと、市場が広がっていかない。メシが食えなくなりますよ」
圧倒的な量のコンテンツを作る。1万本ぐらいのコンテンツを作ろう。そんな高松の言葉に、創業間もない会社に集まったエンジニアをはじめ社員たちは、言葉を失った。
「雑誌でいえば1万本の特集があると考えてほしい」、“おでかけ”にテーマを絞り、飲食店やホテル、スポーツ施設等々、取材し撮影して動画を制作する。極端なコストの削減と制作時間の短縮のため、撮影機材はシンプルに、撮影手法のフォーマット化、レシピ化等、作業プロセスを徹底的に簡素化した。基本的に校正は入れない。
おでかけ動画マガジン「LeTRONC(ルトロン)」の提供を開始は16年5月。徐々に企業から、タイアップの話が舞い込みはじめる。だが、高松は間髪おかず次の一手を模索していたのだ。
進化の先にあるものは?
「動画はコストと時間がかかる。大手企業はできても、中小企業や地方の専門店にはハードルが高過ぎる」
「その点、『LeTRONC』は安い、早い、クオリティがいい。ニーズがありますよ」
「でも、映像の編集や配信は専門のテクノロジーを持った人間でないとできないよね」
「社長、それはしようがないですよ」
高松を中心に、社内ではそんな会話が巻き起こっていた。自主制作の動画は動画制作ソフトを使用していたが、それは見た目にも難しそうで素人が使いこなせるものではない。
「インターネットのサービスは、情報発信の格差をなくすという点にあるよね。それを実現させるためには、動画作りのスキルとコストをさらに落とすしかない」
「確かにその通りですが…」
高松はニヤッとして口を開いた。
「素人でも動画制作ができるサービスを開発しよう。人がやるべきことは面白い企画や映像を考えることだけでいい。動画制作の作業はAIにやらせればいいじゃないか」
それがAIを使った自動動画生成機能の発想である。5Gの時代がすぐそこに迫っている。ほとんどの企業も動画を活用している。あと数年でほとんどの情報はリッチコンテンツ化されるだろう。
「低予算でいい動画を作れて配信できれば、中小企業や地方の専門店は大企業と勝負ができる。情報発信の格差がガクンと縮まる」
AIによる自動動画編集クラウド「VIDEO BRAIN(ビデオブレイン)」の発表は18年9月。プロの動画クリエーターは1日あたり1.5本程度の動画を編集すると言われているが、「VIDEO BRAIN」の中の機能を使うと、1日最大で480本の動画を編集することができる。
「VIDEO BRAIN」は今現在も、次々と新機能が追加されようとしている。
すぐそこに迫ったほとんど情報がリッチ化される時代
会社設立から4年弱。提供するサービスは進化してきた。この勢いで進化を続けると、近未来は一体どんな社会になるのか。饒舌だった高松雄康はちょっと沈黙し、宙に目をやり熟考し口を開いた。
「20年というスパンで考えた場合、ハードウェアの進歩は圧倒的でしょう。もはやスマホを持ち歩かない。手のひらを開いたら映るとか眼鏡の中に、コンタクトレンズの中に映るとか」
「情報のほとんどはリッチ化されていくはずです。リッチコンテンツは平面だった情報が立体化するということ。立体化により体験化でき、視覚で受け取ることができるようになる。視覚で得られる情報はとてつもない量です。
必要な情報を得るために時間がより短縮されるでしょう。すると人の取捨選択のスピードが速まっていく。逆に余計なことを調べたり考えたりしなくてすむ分、人はより本質的なことを深く考える。
どれだけ本質的なことを考え、判断できるかが問われてくる。
いずれにしろ、これからもテクノロジーを駆使し、いかに情報流通に革命を起こせるか、この会社のコンセプトは変わりません」
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama