あなたの知らない若手社員のホンネ~ネスレ日本/荻原裕子さん(27才、入社3年目)~
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中間管理職が知っておくべき若手社員のモチベーション。もちろん20代の読者も同世代の働きぶりには興味のあるところに違いない。今回は料理の試作に携わる女性の話である。
シリーズ33回、ネスレ日本株式会社 食品事業部 フードスペシャリスト 荻原裕子(27)入社3年目。スイスに本社を置くネスレは世界最大の食品・飲料メーカー。マギーのコンソメもこの会社の製品である。彼女の部署は業務用のマギーのコンソメ等の売上げを伸ばすため、レストラン、ホテル、カフェ等に、自社製品を使用した料理の提案を業務としている。
食材を使った料理に携わりたいと、中堅乳業メーカーから転職した荻原さん、食品事業部の生幡和広シェフのアシスタントを担う一方で、営業も担当した。主力商品のマギーのコンソメといえばスープ、スープは温かいもの、故に夏は売上げが落ち込む。そこをなんとかできないか。
「夏場のコンソメの代表的な冷製スープには、ジャガイモを使ったビシソワーズがありますが、もう一品、インパクトのあるものを考えて欲しいというのは長年の課題でした」(小山内達朗事業部事業部長)
彼女がマギーブイヨンを使って考案したインパクトのある新作とは――。
「えっ、コンソメのかき氷!?」
コンソメの冷製スープや、ゼリー状にした冷たいコンソメのジュレはすでにあります。コンソメの売上げを伸ばすために、夏にさらなる涼を表現するには、このジュレをさらに冷たくしてみたらどうなるだろうか。
夏でもマギーのコンソメの売上げが落ちないキャンペーンをやろうという趣旨で、会議が開かれたのは昨年の冬。生幡シェフやマーケティングの担当者も出席しました。その席で、「ジュレより冷たいと言ったら氷ですよね」
と、私は話を切り出して、
「コンソメを凍らせたらどうでしょうか」
「えっ……」
「コンソメのかき氷」
私のそんな発想の背景には、昨今のシロップや削り方に工夫を凝らした、かき氷のブームがあったと思います。
「コンソメのかき氷を料理の上にかけるのか」
「ええ……」
「でも、大昔からかき氷といえば甘いと決まっているじゃないか、コンソメのかき氷なんて聞いたことがない」
と、その時、「作ってみないとわからないけど、ありかもしれない」と、応えたのは生幡シェフでした。
イタリア料理にある、シチリア生まれのグラニータという、シャーベット状のイタリア風かき氷のことをシェフは当然、知っていました。
「かき氷を料理にかけるといっても、かき氷はすぐに溶けてしまう。どうやって提供するんですか?」
「うーん、やるのならお客さんの眼の前でかき氷をかけるのが理想的だが……」
マーケティングの担当者もシェフも、腕を組んで黙ったその時でした。
「実はハンディ用のかき氷器があるんですよ」
かき氷のブームで、携帯用のかき氷器が新発売された、テレビか雑誌かで見たそんな情報が、私の記憶の片隅にありまして。その提案で話は一気に盛り上がりました。
「それはいいな、出来上がった料理が出てきた時に、料理長かウェイターがお客さんの眼の前でコンソメのかき氷をかける。これまでにない演出だね」
「写真を撮ってもらえるきっかけにもなりますよ。これはインスタ映えするぞ。話題になるかもしれませんね」
シャリシャリ、ゼラチン入はペラっ
“氷のコンソメ”の試作は3ヶ月ほどかかりました。最初は凍らせて削って食べてみたんですが、マギーのコンソメにはいろいろと種類がありまして。中華系は氷に合わない。化学調味料が入ったものは、後味に苦味が残る。いろいろと試してみた結果、無添加コンソメは口の中に味が残らず食べやすかった。そこで無添加コンソメをベースにして、コショウ、トマト、トウガラシ等々を加えていったんです。
凍らせると薄く感じる塩味は濃い目にして。塩っぽくなりすぎないようハーブを利かせたり。スパイシーさを出したり、まろやかにしたり。そのままだとシャリシャリした感じですが、ゼラチンを少し入れるとペラっと薄い板状に削れます。バジルが入ると香りがいい。バジルをミキサーにかけて、お湯で溶いた無添加チキンコンソメと合わせゼラチンを入れて、冷凍して固める。
それを強力な保冷水筒に入れ展示会に持ち込み、4000円ほどのハンディかき氷器を20台ぐらい用意して。氷が溶けてしまったら意味がないので、営業担当がお客さんをブースに連れて来るタイミングを見計らい、素早くパッと冷凍のコンソメを取り出し、目の前でザクザクとかき氷にして。
氷のコンソメはヤングコーン、ズッキーニ等のカラフルな夏野菜のサラダにも合いますし、冷製スープやカルバッチョ等にも、相性がいいです。中には冷製スープに入れた氷のコンソメがシャリシャリとして、パンを細かく切ってオリーブオイルで加熱し、スープの浮き実にしたクルトンのようだと、感想を語る人もいます。
試作は50ほど作りましたが、お店のシェフの料理によって、氷のコンソメの中身は無限にアレンジができる。インスタグラム等にアップしてもらえれば、ベースになるマギーの無添加コンソメの知名度も上がります。
時には展示会で、「なんでマギーさんがかき氷なの!?」と聞かれたり。「何これ?、しょっぱいよ」と、言われたこともないわけではありません。かき氷は甘いものというイメージがあるので、驚かれる方もいらっしゃいます。
「お客様の目に留まりやすいように、今年の夏は全営業担当が、これの普及に動いているんですよ」(小山内食品事業部事業部長)
これからのかき氷はコンソメ味です。私は夏のかき氷のイメージを変えていきたい。そのために“氷のコンソメ”を広めていきましょうと(笑)。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama