あなたの知らない若手社員のホンネ~メトロール/菊地勝史さん(26才、入社4年目)~
今回は、中小企業で働く20代の社員のモチベーションを紹介である。同世代が今、どんな仕事に携わっているのか。20代も興味のあるところだろう。この企画は入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、そのマインドを紹介する。
第19回は株式会社メトロール マーケティング部 菊地勝史さん(26才)入社4年目だ。東京立川に本社を置くメトロール(従業員約125名、年間売上高22.3億円)の主製品、ツールセッタは精密加工を扱うCNC(コンピュータ制御)工作機械のミクロン単位の刃先の長さを正確に把握。このセンサーのおかげで、ドリルの先端が磨耗したり欠けたりして生ずる不良品を未然に防げる。スマホ、PC、半導体、医療機器等々の生産現場で、縁の下の力持ち的な役割を果たすツールセッタは世界72カ国のCNC工作機械に組み込まれ、世界トップクラスのシェアを誇る。売上げの約6割が海外での売り上げだ。
英語の堪能な菊地さんは、中小企業を選んだ。なぜなのだろうか。
■俺は必ずお前を一人前にする
元々は公務員志望でした。総務省に内定をもらったのですが、ちょっと待てよと。5日間インターンを経験してみると、お役所は職員同士のコミュニケーションが少なく、個を抑えているように感じました。何より役所に内定が決まってみると、特技の英語を生かしたいという思いが募りました。父親の仕事の関係で小学校の時に米国に、大学時代留学で英国に、それぞれ1年間生活した経験を仕事にいかしたいと。
民間企業へと志望を替え、就活をはじめたのが4年になってからでした。登録した就職サイトからのこの会社を紹介されまして。メトロールのインターンシップの経験から、海外でビジネスを展開していて英語が使える。若手に任されることが多くて、いろんなチャンスが回ってきそうだと感じて。
研修が終わるとすぐに、先輩について営業に回ったのですが。順風満帆だったわけではありません。僕は文系なので「精度が1ミクロン違うだけで」とか言われても、製品を説明する際の単位さえ馴染みがない。それまでやってきたことと、製造業の間にギャップがあって、当時を振り返ると会社に溶け込もうという意識が低かったですね。
1年目は海外に行かせてもらえなかったし。自分の中で合点がいかずに、先輩が教えてくれたこともきちんと聞いていなかった。
そんなある日、営業で同行した先輩に怒られました。
うちにはエア式精密着座センサーという製品があって、僕はお得意さんにこれを売りたかった。相手が興味を示していないにもかかわらず、先輩を差し置く形で、「このセンサーは切粉の噛み込みを確実に検知し、加工不良の発生を未然に防ぎます」等々。お客さんの前で口走ったんです。
「お前、言いたいことばかり言って。なんで人の気持ちを考えて話をしなきゃダメだよ!」
「すみません…」そして、怒られた後でした。「お前な、俺は必ずお前を一人前にするからな!」この言葉も、先輩に強い調子で言われた。
いずれ一人で海外に出て、営業することになる。自立した社員がほしいというのは社長の考え方です。まず周りをよく見て、「自分がどうしたいのか、強い意志を持って仕事にあたりなさい」それは社長からよく言われることで。先輩もその言葉の意味をわかって、僕に接してくれたんでしょう。
■世界に出て初体験した“シリアス”な洗礼
初めての海外出張は、メキシコで開かれた展示会でした。それから間もなくインド担当になると、すぐに“洗礼”が待っていた。
デリーから飛行機で3時間ほど離れた南インドのチェンナイという街に営業に行った時のことです。インド人の代理店の人と一緒に、食堂に入って食べたヨーグルトがいけなかった。そこまでも腹痛は何回か経験しましたが、あそこまでひどいのは初めてでした。
猛烈な下痢に熱が出て悪寒がして、夜中に病院に駆け込んだんですが、医者は「ユー・アー・ベリー・シリアス……」と。白血球の数が増えていて、入院を勧められました。でも、翌日には帰国しなければならなかったし、営業の話もまとまっていない。この時の営業も僕一人ですから、ここで入院なんかしてられません。点滴を2本射ってもらい、薬を飲んだら良くなったので翌日、相手の事務所を訪ね商談をして無事帰国しました。
2年間のインド担当を経て、ASEAN(東南アジア諸国連合)の中で、インドネシアとマレーシアの担当になったのは昨年の春でした。それからは毎月2〜3回、計1〜2週間出張するようになりました。もちろん一人で。会社からクレジットカードを渡され、リーズナブルな航空券の手配から、現地のビジネスホテルの予約もすべて自分でやっています。
現地で開催される工作機械の展示会は重要です。展示会に出店し、情報を得て営業を仕掛けていきます。2014年にインドネシアのジャカルタで開かれた展示会では、引き合いがほとんどなかったと言いますが、昨年12月の展示会では4日間で40件ほどの引き合いがありました。東南アジアも人件費の高騰で、オートメーションを導入しようという流れが加速している。うちにとってはビジネスチャンスです。
20代半ばで単身、旅行バッグ一つ持って東南アジアに乗り込み、クセのある商売人に汗をかきながらセールスを仕掛ける、そんな菊地さんの体験談は後半で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama