あなたの知らない若手社員のホンネ~メトロール/菊地勝史さん(26才、入社4年目)~
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20代の部下との良好な関係を築くためには彼ら彼女らの仕事へのモチベーションの理解が重要だ。今回は、中小企業で働く20代の社員のモチベーションを紹介である。中小企業で働く同世代が、どんな仕事に汗を流しているのか。20代も興味のあるところだろう。この企画は入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、そのマインドを紹介する。
第19回は株式会社メトロール マーケティング部 菊地勝史さん(26才)入社4年目。東京立川に本社を置くメトロール(従業員約125名、年間売上高約22.3億円)の主製品、ツールセッタは精密加工を扱うCNC(コンピュータ制御)工作機械のミクロン単位の刃先の長さを正確に把握。これの搭載で、ドリルの先端が磨耗したり欠けたりして生ずる不良品を未然に防げる。スマホ、PC、半導体、医療機器等々の生産現場で、縁の下の力持ち的な役割を果たすツールセッタは、世界72カ国のCNC工作機械に組み込まれ、世界トップクラスのシェア。海外での売上げが約6割を占めている。
中小企業を選んだ英語が堪能な菊地さん。インドで過酷な環境に身体を慣らし、インドネシアとマレーシアの担当となり毎月2〜3回、計1〜2週間、単身東南アジアに乗り込み商談を重ねている。
■夜のお付き合いが大変なマレーシア
うちの会社は海外出張時には会社からクレジットカードを渡され、航空券も現地のホテルも僕が一人で手配します。
セールスの主力製品はツールセッタで、お得意さんは展示会等で面識を得たCNC工作機械を装備する加工メーカーです。
「ディス プロダクト アクティブ ネセサリー フォー プライズ マシーン」
このセンサーは高精度な加工をするために、必須な製品です。今まで手でやっていたものが自動でできる。「ユー キャン オートマティック〜」全自動でツールの磨耗や欠陥がわかり、不良品が減らすことができます。
社内に海外担当の営業は5人ですが、入社1年目の時と違い、先輩たちは僕の営業の仕方に何も言いません。先輩たちも経験がない中で、営業の仕方を自分で確立してきました。
菊地くん、自分がどうしたいのか、その思いを大切にして、自分のやりたいようにやりなさい、と。社長が先頭になって会社の雰囲気はそんな感じです。
インドネシアはイスラム教徒の多い国で、戒律で飲酒は禁止されていますから飲み会は少ない。歯磨きの時もミネラルウォーターで口をすすぐ等、水や食べ物に気をつけていれば良いのですが、マレーシアは夜のお付き合いが大変で。インドネシアより成熟した市場のマレーシアにはクアラルンプール、ジョホールバル等に、CNC工作機械を使ったカメラや家電の切削加工を手がけるメーカーが多い。現地メーカーは中華系の人がほとんどです。
彼らのビジネスは人間関係を大事にしますから、とにかく飲み会が多くて激しい。乾杯をしたら最後まで付き合うのが流儀で、まずは本場の中華料理からスタートして、それから2軒3軒とハシゴをして、ガンガンお酒を飲む。僕はお酒が強い方ではないので、時には途中でトイレに駆け込むこともありますが、最後まで付き合います。
中華系の人たちは独特な世界があります。例えばある現地のお得意さんを招いて接待した時に、その会社のライバル企業の社員がその宴会の場にいたりする。中華系の人たちは自分たちのコミュニティーの中で、情報やお金を回そうとする傾向がありますから。例えばこちらが秘密にしている機械の売値の情報が、別の会社に筒抜けになっているのではないかとか、疑心暗鬼に陥る時もあります。
マレーシアはほとんどの地域で英語が通じますが、飲み会の席で中華系の人同士が小声でうなずきあっているのを目にすると、何をヒソヒソと話しているんだろうと。そんな時は中国語もできたほうがよかったなと実感しますね。
■可能性があるのならやってみろ
これもマレーシアのお客さんの案件でしたが、ある加工メーカーから一台10万円ほどのうちの製品を、何台か受注したんです。ところがうちの製品を自分で工場の機械に取り付けることができない。「取り付けオネガイシマス」と、責任者に頼まれまして。日本からエンジニアを連れて行くと経費がかかります。航空運賃が一人往復で約10万円、宿泊費が一人5000〜6000円。その他に食事代もかかるし……。
製品の取り付けのためだけに、エンジニアと海外に行けば、利益が食われて赤字になりかねません。でも、実はこの会社の工場には、工作機械が100台以上設置されているんです。今回は数台の受注でしたが、ここで誠意を見せれば次にビッグな契約に繋がるかもしれない。しかし受注を増やすと確約を得ているわけではありません。
果たして費用対効果はあるのか。本来、僕が判断しなければいけない案件でしたが、決めきれずに上司に相談したんです。すると案の定、「行け!」と。僕の席から3、4m離れた窓側のデスクに座る社長も、「可能性があるのならやってみろ!」と。そうなれば僕のデスクのすぐ後ろが、技術者のデスクですから。すぐに技術者を伴っての出張が決まりました。
取り付けまでケアしたことで今、その会社からの追加受注が徐々に増えていて。ビッグな受注のゲットに近づいている予感がしています。
確かに公務員になることをやめようと思った時点で、大学を留年していれば次の年の就活で、大企業に入る機会はあったかもしれません。でも、入社3〜4年目の人間にここまで任せてくれる会社はそうはないでしょう。自分のやりたいようにやらせてくれる反面、僕はどうしたいのか、そこが課題です。ビジネスに対するしっかりとした意思と判断を、もっと養わなければ。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama