■あなたの知らない若手社員のホンネ~飛島建設・坂東美乃利さん(28才、入社3年目)~
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20代の部下の仕事へのマインドを理解することは中間管理職にとって必須だ。それが良好なコミュニケーションに繋がる。若い世代にとっても、同世代がどんな仕事に汗を流しているのか。興味のあるところだろう。この企画は入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、そのモチベーションを紹介する。
第12回目は飛島建設株式会社、建築事業本部建築統括部構造設計Gの坂東美乃利さん(28才)入社3年目。耐震や補強等、構造設計を担う技術者だ。設計事務所を営んでいた父親。「これがお父さんの作ったビルだよ」子供時代に聞かされた言葉が心に残り建築の道へ。学生時代の東日本大震災の影響もあり、地震も津波にも強い建物を目指し構造設計を志すが、最初の仕事で大学院まで就学して得た知識が、実務に結びつかないことを実感。先輩に一から教えてもらうが計算ミスを連発してしまう。次に取り組んだのが、築50年は経とうかという甲信越のスーパーの立体駐車場の補強設計だった。
■まずは支柱の補強
現地調査に訪れるとひび割れの入った壁、床のコンクリートは削れて、鉄筋が見えているところもある。建物の診断を行った別の会社から診断のデータを受け取ったのですが、図面上で特に気になる目星を付けた現場を確認すると、測った柱の数値が図面と違っていまして。
本来は構造物の診断のデータを元に、補強の設計をすることが多いですが、今回は診断データをこちらで作り直しました。構造計算プログラムを使い、コンピュータの中に立体駐車場を組み立てることからはじまり、現地に行って部材の長さを測ったり。ブレースといって、アングル等の型鋼で作られた部材を確認したり。
さて、補強設計はどうするか。まず、支柱を補強しなくてはいけない。支柱を補強するにも、それを支える梁も細いし床の強度もおぼつかない。支柱を大きくするとブレース、つまり補強材も替えないといけない。
「ここの補強は面倒くさいところだな」図面を見てのそんな反応は、うちの会社の施工の人間です。現場の手間を減らし、工期の短縮を考えて設計するのが私たちの役割ですから、施工側との相談は欠かせません。
「コンクリートの壁を削らなくてはいけない。削る面積をできるだけ最小限にしようと設計したんです」「でも、こんなに細かく削るんだったら、全部取っちゃったほうが楽なんだよ」「あー、そうですね」
今回の立体駐車場は図面が複雑で、補強箇所が多い。鉄骨造は溶接箇所がどうしても多くなってしまう。
「そんなに溶接をする人間がいないよ。溶接箇所をもっと少なくできないの?」でも、新たに補強材を足さなければならない。それにはボルト接合は無理で、
「ここは溶接してもらわないとダメなんですよ」
そんなやり取りを繰り返し、設計を練り上げていきます。
■「私おおざっぱで」本音がポロリ
もちろん、設計に計算は付きものです。今回の立体駐車場の案件は、鉄骨造と鉄骨鉄筋コンクリート造を組み合せた構造だったため、複雑で自動計算では対応できずに、ほとんど手計算でフォローしました。例えば補強材の取り付けに関してボルトは何本必要かとか、紙に手書きで強度計算をして、基準を満たしているかどうかの確認をしました。
補強設計は人の命に関わる仕事なので、計算のミスはあってはならない。「間違えるものだと思って取り組みなさい」と、先輩に諭されていましたから、「私はミスをする」と自分に言い聞かせ、最低でも2回は計算して数値をチェックしました。
それでも計算間違いはありまして……。
「すみません、失敗ばかり……」30代前半の先輩とご飯を食べた時に、そう言ったら励ましの言葉をもらいまして。
「私、性格がおおざっぱですから」思わずそんな本音が口を吐いた。すると先輩は笑顔で、
「実は、僕もそうなんだよ」「えっ、先輩が…」「設計は全体を把握し、ざっくりとおおざっぱな計算をして当たりをつける。そこから様々な変更に臨機応変に対応していくもんだよ」と、私の性格をフォローするアドバイスをもらいました。
立体駐車場の補強設計の申請が通るまで、1年ほどかかりました。完成した分厚い書類は大学の先生等で構成される、第三者機関の評定委員会にはかります。評定を取得すると国から補強に関しての助成金が下りる仕組みです。
評定委員会の席で構造物の耐力の計算方針を聞かれうまく答えられず、この時も先輩に助け舟を出してもらって。全然力が足りないなーと。でも、ちょっと嬉しかったこともありました。補強する支柱に色を使ったりして、私は見やすさにこだわったので、評定委員会の先生には「きれいにまとめられて、わかりやすい図面だね」という言葉をいただきました。
今、一級建築士の取得を目指しているのですが、資格を取得した暁にはいずれ新築物件を手掛けてみたい。超高層ビルを指差して、「これ私が作ったビルよ」と、言ってみたい(笑)。
取材・文/根岸康雄