【後編】《課長はつらいよ》「部下が反発する気持ちもわかる。部下の気持ちは汲んであげたい」タカラトミー・平林思問さん

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連載中の「若手社員の本音」シリーズ。中間管理職が部下の若手社員を知るための連載だが、今度は中間管理職本人にズバリ本音を聞きこうという新シリーズである。社内でも孤立しがちな中間管理職、中年世代はそれぞれ働く現場で何を考え、何に悩み、どんな術を講じ日々、仕事に携わっているのか。

シリーズ第一回は株式会社タカラトミー マーケティング本部 ベーシック事業部 プラレールマーケティング部 マーケティング課 課長 平林思問(ひらばやし・しもん)さん(39)。一昨年、課長に昇格。プラレールマーケティング課のリーダーとして、30歳前後の部下5名とともに仕事をしている。

部下に目配りし、時には一緒に悩むことも大切にしたい

若き平社員時代、エアギターの玩具を売るため上司とコンビを組み大会に出続け、ステージでパフォーマンスの披露した平林さん。今は課長として上司と部下に気配りの日々だ。「部下の仕事に課長が手を出しすぎるな、自分で考えさせろ」部長にはよくそう言われるが、彼はまた別の思いを抱いている。

課長は部下が困った時、“こうしたほうがいい”“こうすべきだ”と声がけをし、一緒に取り組むことも必要なのではないか。

「課長って、野球チームに例えるなら監督なんでしょうけど、それだけじゃない。時には4番バッターで、エースピッチャーの役割も受け持つ必要がある、そんな思いが僕の中にはあります。部下を育てるために口を出すなというのもわかりますが、それだと仕事が止まってしまう場合がある。僕が動くことで“あっそうすればいいんだ”と部下が気付き、仕事が動き出せばそれでいいんじゃないかと」

部長まで出世する人は、自分なりに考えて努力をしてきた、仕事のできる優秀な人間だ。でも社員みんながそうかといったら、そうでない人もいる。管理職になりたいわけではないし、好きな仕事だけを気楽にやっていればいいと考える人もいる。そんな社員に「お前もっと自分で考えて、努力しないとダメだぞ!」という言い方や態度で接しても、響きはしない。

部下に目配りし、できそうもない点は伴走するように一緒に取り組む。平林はそうすることで築けるものがあるという。「大切なのは部下と課長の僕が、考え方を共有することだと思うんです。部下の仕事を手伝うことで、お互いに考え方を共有できれば、部内で手掛けるCMもいいものができて、子供を喜ばせることができて商品も売れる」

部長も「平林の考え方を部下にわかっているんなら、それでいいんだが」と、彼のやり方を認めてはいるそうだ。

部下の考えを尊重し、実現させてやりたい。でも…

男性の部下の一人は、他の部署でいろいろな経験を積んでいる。これまで経験したことを生かし、新しい視点や感覚を取り入れ、プロモーション事業部のリフレッシュを担うことを期待している。一番若手の男性の部下は『新幹線変形ロボシンカリオン』のプラレールを担当している。

「彼は勘が鋭い。生産や売り上げ等の計画をしっかり立てて、どんなプロモーションをどのタイミングでやるか、明確に出してくる。プロジェクトの関連会社と折衝も、ほぼ一人でやっています」

彼は「こうしたほうがいいのでは」という平林の問いに対して疑問を感じた時は、「いえ、それは違います」とはっきり応える。それは情熱を持って仕事に取り組んでいる証なのだろうが、時に若さ故の荒さもある。そのサポートは自分の役割だと平林は感じている。

なにせ平林は今、上司と部下と両方に気配りしなければならない中間管理職である。彼は「仮に」「例えば」と繰り返し言葉を続ける。

「仮にロボットのポスターを制作することになったと。ロボットをカッコよく見せるには、人それぞれ考えが違うわけですよ。例えば部下はロボットを下から舐めるように、撮影したほうがカッコいいと。僕も部下の考えがわかるので部長に企画を上げます。でも例えば部長はもっと全体を写して、情報量を多くしたほうがいいという意見を持っている」

課長としては部下の考えを尊重し、実現させてやりたい。部長や役員に提案を要約して「彼を応援したいので、よろしくお願いします」と。そんな平林に、「わかったよ」と言ってくれる時も多いが、通らない場合もある。

「いやそれは違いますよ。僕はこの角度から撮った写真じゃないと作りたくありません」

反発する部下のそんな言葉に内心、平林は共感する面もあるのだ。

彼自身、平社員の時代は上司に反発し文句を言うタイプだった。企画が通らないとブスッとなり、「お前はすぐ顔に出るタイプだな」と、たしなめられたこともあった。上司と焼鳥屋に行った時、「焼き鳥を串から外して、みんなが食べやすいように取り分けるぐらいの気を利かせろ」と言われ、「そんなもん、個人の勝手だ!」と、上司と大げんかした“武勇伝”もある。

だが、今は課長だ。最終的な部長や役員の判断はどうにもならない。「今回は悪いんだけどさ」と、平林は企画が通らなかった時、その理由を部下に丁寧に説明することを心がけている。彼は“シモンさん”と名前で呼ばれているが、「企画は通らなかったが、自分の気持ちはシモンさんがわかってくれている」部下がそう思ってくれたとしたら、平林は内心嬉しい。