【後編】入社6年目社員の本音「男性のウェディングプランナーゆえの悩みもあります」エスクリ・中尾浩人さん(2018.07.01)

あなたの知らない若手社員のホンネ~エスクリ/中尾浩人さん(27才、入社6年目)~

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20代の仕事へのモチベーションを知ることは、平穏な職場づくりの第一歩。20代にとっても、同世代がどんな仕事に悪戦苦闘しているのか知りたいところだろう。今回はウェディングプランナー。結婚式のプランニングを行う業種は、女性が8割を占めるといわれるが、今回登場するのは男性である。

株式会社エスクリ ザ・プレミアムレズデンス・ラグナヴェールトウキョウ 副支配人 中尾浩人さん(27才)入社6年目。

エスクリはブライダル事業を行う企業。20年ほど前と比べると、結婚式を挙げるカップルは半減したといわれるが、「結婚式は学生時代文化祭や体育祭のようなイメージ。二人でイベントを行うことで絆が強まるし、結婚相手のことをより深く知ることができます」と、まずは挙式の効用を語る中尾さん。

入社1年、披露宴を取り仕切る仕事に慣れた頃、プランナーに配転。福岡から東京駅に近いラグナヴェールトウキョウに転勤。会社の中では一番忙しい結婚式場で「止めとけ、大変だぞ」と先輩に忠告された。忙しいのはそう苦にならなかったのだが――

■人生で初、人から拒否され疑心暗鬼に

プランナーには、会場を見学に来たお客さんを申し込みまで案内する新規担当と、すでに申し込まれた方と挙式の内容について、打ち合わせをするスタッフと二種類あって。僕が担当したのは、打ち合わせを担当するプランナーでした。

カップルのおよそ8割が、式の具体的な内容について新婦が主導権を握ります。新婦としては同性の方が相談しやすい。ですから打ち合わせのプランナーの8割は女性だし、女性の方が仕事はしやすい。

うちでの結婚式を決めた方に対して、担当が振られるのですが、「この度、担当になりました中尾です」そんな電話を差し上げると、「女性の方がいいんですけど」電話口でいきなり言われたり。初回の打ち合わせの次の日に、「女性の担当者に変更していただけませんか」という連絡が入ったり……。

ショックでしたよ。学生時代から親や先輩に注意されたことはあっても、拒絶されることはありませんでしたからね。人からまったく認められないという経験は、人生で初めてでした。最初は月に数組のプランナーを受け持ったのですが、うち一組は担当替えを申し出られて。そうなると――、

えっ、なんでなんだ……このお客様も本当は女性の担当の方がいいと思っているに違いない……そんな疑心暗鬼が僕の中で生じて。

でもなんとかしなければならない。まず考えたのは、男性ならではの利点もあるだろうということ。挙式にあまり熱心でない新郎でも、結婚式の直前に電話をして、「この機会に新婦様に感謝の気持ちを伝えましょう」と。「感謝の気持ち…?」戸惑う新郎に花束を提案する。花言葉を覚えておいて、「赤いバラは99本が“永遠の愛”を意味します」とか。「アジサイは家族団欒の意味がありまして、ブルーのお花が好きな新婦様にピッタリです」とか。式の当日、サプライズとして手紙とともに花束を贈ったり。

新郎が結婚式でやりたいということを、応援したりもします。「祝いの席で親睦を深めるため、仲間と騎馬戦をやりたい」というお客様は、さすがにシャンデリアを壊す危険があったので思いとどまっていただきましたが。

■妻から学んだプランナーとしての要

でも、なんとか新婦の気持ちに寄り添い、売上げの数字にも反映するようなプランナーになりたい。近年では結婚式の際に、ご懐妊されている新婦も珍しくありません。挙式当日はクッションを置いてあげたり、お腹を冷やさないように膝掛けを用意したりとか。僕には先輩に教えられたその程度のことしか、マタニティに対する知識がありませんでした。

ご懐妊中は体調も変化します。そんな時に担当が若い男性で、何もわかってくれない。ただでさえ不安なのに、僕がゲストテーブルに置く花の金額を取り違えたことがあって。「20万円間違えましたって、いったいどういうこと!?」と。途中で担当替えになったこともありました。

どうすれば、女性のことを知ることができるのだろう。と、そんな悩みを抱えていた時、たまたま僕が職場結婚をすることになりまして(笑)。式はどうしようかと相談している時に奥さんの妊娠がわかった。奥さんの希望で結婚式は出産後に行うことになりました。僕は妊娠から出産に至るまでの女性の変化を、間近で目にすることができて、これが勉強になりましたね。

挙式まで4回ぐらい打ち合わせをするのですが、2回目が6〜7時間と一番長い。それが妊娠3〜4ヶ月のタイミングで入った時は、長い打ち合わせを2回分けたり。

「私、つわりもひどいし、精神的にも不安になる時があるんです」そんなご相談に対して、「結婚式の時は安定期に入っていますから、つわりの心配もありませんし。精神的にも落ち着く時期です。ご懐妊中に結婚式を挙げられた方は、これまでにもたくさんいらっしゃいましたよ」と。そんな話が自然とできるようになると、新婦さんの反応も変わってきました。

僕の時もそうでしたが、最近はお子様連れの結婚式も増えています。赤ちゃんは披露宴中に授乳をしなければいけない。お色直しお着替えを授乳のタイミングに合わせたり。子供が特になついている、おばあちゃんやおじいちゃんにはそばにいてもらう。子供が泣き出したら、披露宴の進行を妨げないよう、すぐにあやしてもらえるような気配りをしたり。

そうしているうちに、徐々に担当を替えられることもなくなりました。プランニングするお客様の数も増え、結婚式の内容をご提案して、売上げに貢献することもできました。一昨年はうちのナンバーワンプランナーに与えられる、エスクリ・ベスト・オブ・プランニング・アワードという賞を、男性では初めて受賞して。それも嬉しかったのですが、この業種はサプライズに遭遇することが多い。

先日、結婚式を挙げたカップルは、新婦のご両親が結婚式を挙げていませんでした。そこである計画をお願いされまして。披露宴が終わり、ひと段落している中、僕は密かにゲストの方々を館内のチャペルへとご案内して。

ご両親をチャペルの扉の前にお連れしました。扉が開くと新郎新婦をはじめ、ゲストの皆さんが一斉に拍手をされて、手を取りバージンロードを歩くご両親の姿には、涙が止まりませんでした。

僕自身、目頭が熱くなることを日常的な業務で行っている、結婚プランナーには、そんな醍醐味があります。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama