【前編】入社6年目社員の本音「新郎が酔いつぶれてしまった時はどうしようかと…」エスクリ・中尾浩人さん(2018.06.29)

あなたの知らない若手社員のホンネ~エスクリ/中尾浩人さん(27才、入社6年目)~

20代の仕事へのモチベーションを理解することは、平穏な職場づくりの第一歩。20代の同世代にとっても、どんな仕事に悪戦苦闘しているのか興味があるに違いない。今回はウェディングプランナー。結婚式のプランニングを行うこの業種は、女性が8割を占めるといわれるが、その中で今回登場するのは男性である。

シリーズ28回目は、株式会社エスクリ ザ・プレミアムレジデンス・ラグナヴェール トウキョウ 副支配人 中尾浩人さん(27才)入社6年目。

エスクリはブライダル事業を行う企業。20年ほど前と比べると、結婚するカップルで挙式をあげるのは、半分程度に減っているといわれるが、「結婚式は学生時代の文化祭や体育祭のようなイメージ。イベントを二人で行うことで絆が強まるし、金銭面をはじめ、相手のことをより深く知ることができます」と、まず結婚式の意味を中尾さんは語る。

■電光掲示板に感動。祝福を演出したい

学生時代、アメリカのシアトルのホームスティ先がかなりリッチなお宅で。イチローと松坂大輔の試合を観戦した時、試合の途中で、『ハッピーバースディ ヒロトナカオ ウエルカム トゥ アメリカ!!』という文字が電光掲示板に映し出されて。球場の観客がスタンディングオベーションで、拍手をしてくれたんです。

それは僕にとって、人生で最も感動した瞬間でした。企画してくれたホストファミリー、そして球場で祝福してくれた観客がいて、あの感激が生まれた。僕も誰かを祝福するために人が集い、感動を演出するような仕事にしてみたい。そんな思いで就活の時にブライダル業界に注目して。この会社の会長の「うちの結婚式はソフトで勝負する」という言葉はインパクトを感じました。式場のきらびやかさで勝負するのではなく、スタッフのおもてなしの力で、一生に一度の結婚式を思い出に残るものにしていくと。

福岡の大学を卒業し、勤務は福岡市内の結婚式場でした。配属はサービスの部署で、最初は披露宴で料理やお酒の給仕や、式の進行をフォローする仕事です。仲の良い同期は学生時代に結婚式場でのアルバイトが長く、結婚式への思い入れも強く知識もありました。

例えば彼は、一度に料理の皿を片手で4枚持てる。「サービスマンなら普通だよ」と、何気なく言われたことが悔しくて。仕事が終わった後、片手で4枚皿を持つ練習をしましたね。

結婚式の責任者をキャプテンと呼んでいますが、僕がキャプテンを任されたのは入社から半年ほどした頃でした。

初めてキャプテンを担当する前日の夜、誰もいない披露宴の会場で、一人で新郎新婦を先導する練習をしていたんですが、それを先輩に見られ後で笑われたことを覚えています。キャプテンは披露宴が始まる前に、口上を述べなければならないんですよ。

「このたびは誠におめでとうございます。これからお二人がご入場される扉は、こちらでございます。スタッフがドアを開けますので、会場に入って一、二、三歩進んだ後、みなさまに一礼をお願いいたします。その後すぐに歩き出すのではなく、扉のところで写真タイムがあります。私が合図を送りますので〜」等々。立て板に水のごとく、微笑みを浮かべ語らなければならない。でも、最初の頃は慣れていないので舌を噛みそうになったり、うまく説明ができなかったこともありました。

「素敵な結婚式は素敵なスタッフが作るんだ」「キャプテンが間違えたら、新郎新婦は不安になる。ミスは許されない」先輩には常にそう言われていましたから。間違えた時は披露宴の後に、「そもそも責任感のなさだね」とか、一言いわれると心にズキンときました。

■最長は5時間の披露宴

 キャプテンは披露宴の終了時間にも、気を配らなくてはいけません。披露宴の時間はだいたい2時間半ですが、キャプテンにも慣れてきた頃のことです。僕が受け持った披露宴で、通常の時間よりもさらに2時間半も押してしまい、5時間かかったことがありました。

いつも通りはじまった披露宴でしたが、めでたい席ですからゲストの方から、「まあ一杯」とお酒を勧められて。新郎はお酒に弱かったのでしょう。お色直しの着替えに新郎新婦が席を立ち、再入場する時に新郎が扉の前で完全に動けなくなってしまった。さらにぐーぐーとイビキをかき出はじめたんです。新婦は泣き出してしまうし、いったいどうしていいのか僕もあわてた。

椅子を持ってきて、扉の前で酔いつぶれ寝入っている新郎を座らせて。「新郎は入場できません」僕の言葉に、駆け付けた僕の上司のリーダーが、助け舟を出してくれました。

「もう一つの扉から、新婦とお父さんを入場させよう」司会者にも、「お父様がすごく大事にされていた新婦様ですから」と、新婦とお父さんが並んで会場に入場してくるシーンに、フォローの言葉を添えてもらって。「料理を先に出しましょう。食事の時間をゆっくりとって、食後のコーヒーもなるべくお替りしてもらうようにして」「その間に新郎の回復を待とう」

結局、最後の新婦の手紙を読むシーンでは新郎もなんとか回復。メインテーブルに二人並んで立ち、つつがなく終わりましたが、5時間の披露宴は後にも先にも、あれ一回きりです。通常は複数の披露宴が入っていて、長時間は不可能なのですが、この時はたまたま後ろに、宴会がなかったので助かりました。

「中尾くん、キミ、プランナーに合いそうだね」と、入社当時から上司に言われていました。プランナーへの配転は、キャプテンの仕事が軌道に乗った入社1年後でした。配属が決まり、福岡から今のラグナヴェール トウキョウに転勤になりまして。東京駅に近いこの結婚式場は、会社では“八重洲”と呼ばれていて結婚式の数が一番多い。

「止めとけ、大変だぞ」先輩たちには口を揃えてそう言われたのですが、僕はいいチャンスだと思ったんです。ところが――

忙しいのはいいとして。どんな結婚式にするのか、主導権を握るのは新婦だ。新婦は式の内容についての相談相手として、同性を好む。そんな事情から結婚プランナーの8割は女性だ。その中に飛び込んだ中尾さん、結婚式の売上を伸ばすための孤軍奮闘ぶりは、並大抵ではなかったようである。

そのお話は後編で。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama