【前編】入社3年目社員の本音「チンパンジーからアレを投げつけられました」多摩動物公園・田口陽介さん(2018.03.19)

20代の部下の仕事への熱いマインドを中間管理職者は理解しているか。彼らとの良好なコミュニケーションはそこから始まる。若い人にとっても、同世代がどんな仕事に汗を流しているのか。興味のあるところだ。この企画は入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、そのモチベーションを紹介する。

第12回目は多摩動物公園飼育展示課、北園飼育展示係、チンパンジー担当、田口陽介さん(25才)入園3年目だ。

■チンパンジーとの握手の仕方。

子供の頃から動物が好きでした。犬や鶏や熱帯魚やいろんな動物を飼っていた。動物飼育系を専攻した大学時代、上野動物園でボランティアやアルバイトを経験して。卒業後は東京動物園協会という組織に籍を置き、多摩動物公園には嘱託として配属になり、昨年正規採用になりました。

嘱託として配属になってすぐに、担当動物はチンパンジーと決まり、びっくりしました。お客として見ている時は運動場も広いし、いい展示だなと思いましたが、まさか飼育する側になるとは……。

多摩動物公園のチンパンジーは、アフリカから来た個体や園内で繁殖した個体、他の動物園から来た個体を含め、国内の動物園では最大の18頭を飼育しています。まず大切なのは「馴致」という作業。つまり、すべての個体とコミュニケーションをとることです。「握手をして」「頭を触らせて」、メスは「お尻を見せて」と。触れば熱があるかどうかがわかりますし、メスはお尻の感触で、発情しているかどうかがわかる。体調管理の面からもスキンシップは重要です。

チンパンジーはでかい。怒って毛を逆立てるとさらに大きく見えます。爪の厚さは人間の3倍、力も人間よりはるかに強い。「事故は絶対にあってはならない。気をぬくな」、これはチンパンジーの飼育係に配属になった時から、上司や先輩に言われ続けていることです。すべては鉄格子を挟んでの作業ですが、動物を逃さないように鍵のチェックは必ず飼育員が二人で確認する。

最初に注意されたのはチンパンジーとの握手でした。常に手の甲に触れる。それがチンパンジーとの握手のやり方です。手のひらを握って万一、捕まれ猛烈な力で引っ張られたら、怪我をする恐れがあるからです。

チンパンジーは人を識別しますから、僕のような新入りは4人の飼育員の中でも、一番下に見る。先輩と同じように格子越しに手を入れ「握手して」と、手の甲を触ろうとしても無視されたり。僕の手を引っかこうとしたり、ツバをはきかける子がいたり、声をかけても無視され続けて。

「どうすればいいんでしょう」と、先輩に相談したんです。時間が必要だとアドバイスをされ、「やり方を替えながら、付き合い方を自分なりに見つけていきなさい」と。

■うんこがパーンと

人と同じように、チンパンジーにも個性がある。一頭一頭に対してどう付き合っていくかを考えていかなければなりません。例えば若いメスのミルは名前を呼んでもこない。「ミル!」と、強い口調で呼ぶとヘソを曲げてしまう。逆にメスのミカンはちょっと強めの口調で名前を呼ぶと僕に従ってくれる。

ニコニコしているとなめられるのかもしれない、そんな思いからも、ミカンには強い口調になったんですが、「田口くん、半年は怒っちゃダメだよ」と、先輩に言われまして。

「関係性が築けていないのに怒ると、“この人は嫌い”というイメージを植え付けることになるからね」と。なるほど、人間もそうだなとうなずきました。

オスのマックスは関係を築くのに時間がかかったチンパンジーでした。ある日の朝、格子越しに通路から運動場に出る扉を開こうとした時、「朝からお前の顔を見るとムカつくんだよ」という感じで、思い切りうんこを投げつけられて。餌は果物や野菜を中心に1日15品目以上、量も一頭ずつ管理されていて、それほど臭くはないのですが。パーンと手に当たったうんこの衝撃に、今更ながらチンパンジーの力の強さを感じました。

オスのデッキーは男性や見知らぬ人に対して、毛を逆立て鉄格子や地面をバンバン叩いたりディスプレイをする。デッキーとはなかなか打ち解けることができませんでした。「あの子とはたくさん遊んであげて、関係性を築け」と、先輩からのアドバイスにもらい、手の甲に触る握手を延々と繰り返したり。

ある時、機嫌がいいと遊びに誘うことがあることに気づいて。鉄格子越しにデッキーが走るとそれに着いて僕も走る。檻を挟んで行ったり来たり、チンパンジーと追いかけっこをするんです。「アッアッアッアッ!」デッキーは歯を見せて大笑いして。そんなこと繰り返してデッキーとも徐々に関係を築きました。

冬は布団代わりに麻袋を渡します。チンパンジーはそれにくるまって寝るのですが、寒いから朝になっても、袋から抜け出るのを嫌がるのがいる。日本で2番目に高齢のおばあちゃんチンパンジー、57才のペコはいつまでも麻袋を返さなかった。でも、ある時から僕のお願いに応えるように、渋々という感じで麻袋を返してくれるようになりました。

毎日、餌をくれたり掃除をしてくれたり、遊んでくれたりする。いい人なんだとチンパンジーが認めてくれた、彼らとの距離感が縮まったかなと実感を持った出来事でした。

チンパンジーは群れで生活をする動物だ。個性を持ったそれぞれのチンパンジーが、群れの中でどのような行動をとるのか。人間社会を彷彿とする珍エピソードは後半で。

取材・文/根岸康雄