【前編】入社3年目社員の本音「自分は必ず間違える」飛島建設・坂東美乃利さん(2018.02.21)

■あなたの知らない若手社員のホンネ~飛島建設・坂東美乃利さん(28才、入社3年目)~

「何を考えているのか、本当のところ、よくわからんよ」20代の部下を前に中間管理職のそんな声を耳にする。そこで彼らの仕事に対するマインドを伝えるこの企画。若い世代にとっても、同世代の人間がどんな仕事で汗を流しているのか、興味のあるところだ。

第12回目は飛島建設株式会社 建築事業本部建築統括部構造設計Gの坂東美乃利さん(28才)入社3年目。耐震や補強等、構造設計を担う技術者だ。

■一からの勉強

父が家の近くで営む設計事務所に、子供の頃から出入りをしていました。大きな建物を指差し、「これ、お父さんが作ったんだよ」なんて言われて、子供心にかっこいいなと。父の仕事への憧れが建築の業界に進んだ動機でした。構造設計を目指したのは、学生時代に起きた東日本大震災の影響がありました。地震や津波にも耐えられる、安全な建物作りを担いたいと。飛島は「トグル制震装置」といって、地震エネルギーを効率よく吸収する構造設計の仕組みの研究と導入に、力を入れている会社です。

最初に取り組んだ大きな仕事は、埼玉県内の5階建ての病院の耐震診断。老朽化した建物を診断して、施主に補強箇所を指摘するのが仕事ですが、大学や大学院で学んだことが実務に結びつかない。30代前半の先輩に教えてもらいながら一から勉強しました。例えば壁を単体で見て、自分なりに計算をして先輩に提出すると、「考え方が間違えているよ」と指摘されて。

「これは壁単体で耐力評価するのではなく、周辺の柱や壁も地震の揺れに対して、一緒に抵抗すると考え、周りの柱や壁も加えて耐力計算をしなければならないんだ」と、先輩に教えてもらいました。

壁の厚さはまちまちですから、常に図面をチェックしなくてはいけないのですが、それを怠りミスにつながったこともありました。壁は上の方になると薄くなっていく。でも私は3階の壁が180ミリだったから、5階も同じだろうと思い込んで、数値を間違いたり。単純な計算ミスも多かった。

■バカだからじゃないの?

「それって、バカだからじゃないの?」とは、先輩ではなく、父の言葉です。先輩に壁の厚さ等の数値のミスを指摘されて、「すみません、やり直します」と謝ると、「最初だからしょうがないよ、みんな失敗するもんだ。めげずに頑張りなよ」と、声をかけてもらいまして。

「もっとちゃんと確認しないとダメだよ。自分は必ず間違えるものだと思いなさい」先輩にそう諭されたのは、しばらくして仕事に慣れてきた頃でした。

病院の耐震診断の案件では、図面上で気になる箇所のコンクリートの一部抜き、その健全性等を確認する作業も行いました。「壁を確認する作業は、土日にしてほしい」とか、病院側の注文は多かったのですが、3ヶ月ほどで耐震診断を終わらせることができ、納期を守ることができて。診断に基づき、補強しなければ壁が一部崩壊したり、ベントハウス部分が倒れたりする危険性があることも、指摘しました。

最初の仕事で失敗は色々とありましたが、短い期間の中で耐震診断をまとめたことは、私にとって成功した案件という思いを持っています。

現状では新築案件より、既存の建物の補強とその設計の仕事が多いんです。私が次に取り組んだのも、甲信越のあるスーパーの立体駐車場の補強設計でした。埼玉県内の病院の案件は耐震診断でしたが、立体駐車場はすでに別の会社が診断を済ませていた。私たちはその診断に基づき、立体駐車場の補強を設計するのが仕事だったのです。しかし、

「あれ、よくわからないぞ……」

受け取った診断のデータを精査してみると、おかしい部位が何箇所も見つかったのです。早速、部署の先輩たち3人で現地調査に出向きました。黄色いヘルメットをかぶり、立体駐車場を調査してみると。

ひび割れが入っている壁、床のコンクリートは削れていて、鉄筋が見えている部分もある。柱が異状に細くて、現行基準の法律では使用禁止の部材を使っているところもありました。補強を重ねたところは図面とサイズが違っていたり、図面自体が残っていない補強箇所もありました。

「50年ぐらい前に建てたものかもね……」

そんなことをつぶやきながら、調査をしたのですが。

なにやらお化け屋敷にでも踏み込んだ印象だが、施主のスーパー側は補強をして、できるだけ今の立体駐車場を残してほしいという注文だった。さて、坂東さんたち構造設計のグループはどんな悪戦苦闘をこなしていくことになるのか。詳細は後半で。

取材・文/根岸康雄