【後編】入社4年目社員の本音「自分なりに納得できることが大切」ライオン・三田直輝さん(2018.01.11)

■あなたの知らない若手社員のホンネ
~ライオン・三田直輝さん(28才、入社4年目)~

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中間管理職にとって必須の課題は、20代の部下との良好なコミュニケーションだ。20代の社員はどんなマインドを秘めているのか。また若い世代にとっても、同世代がどのような仕事をしているのかは興味がある。そこで入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、本音に迫るのがこの企画である。

第7回目はライオン株式会社 研究開発本部 ビューティーケア研究所 三田直輝さん(28才)入社4年目。大学院で分子脳神経科学を専攻した彼は、香りと脳の繋がりを生かした製品の香料開発を志望。「自分の感性を信じてやってみろ」という上司の言葉に勇気付けられ、口臭を予防する新製品のハミガキ、『NONIO』の開発に従事。ピンクに象徴される可愛らしい感じの女性に向け、フルーツの香味の開発を担当。時にチームリーダーに疑問を呈するも、上司や先輩は彼の流儀を受け入れていく。

●要は自分なりの納得。

『NONIO』の開発とは別に、新たな価値を見つけるグループワーキングのチームに参加した時のことです。新領域にチャレンジしていくため、データを蓄積する了解を上司にもらいました。臭覚についての仕事をして、最近では満員電車のおじさんの加齢臭や汗臭さが気になり、つい臭いを嗅いでしまう。ですから、この時のデータの蓄積を仮に加齢臭に関してとしましょう。

加齢臭なら高齢者の年齢によって細かく臭いを分けることができる。また昔の60才と今の同年輩の人とでは、加齢臭に対する考え方が違うのではないかとか、時代背景の差も考慮して。調査会社に依頼をしたり、モニターの方に加齢臭を嗅いでもらったり。この時も小規模ですが、自分が選んだテーマに対して納得いくデータが得られた。そこでチームリーダーに、この時のデータを部所の人たちと共有したいと提案したんです。すると、

「まだデータが足りないよ。外に発信できるレベルではない」と言われまして。僕としては部所内でデータを共有すれば、意見がもらえると思ったから、「発表したいです」と。

「発表するなら、チームのグループ名を外してくれ。勝手に個人で集めたデータを発表するという形でやってくれ」「わかりました。勝手にやりますよ、チームもやめます」

そんなやり取りを見ていた上司が、まあまあと間に入ってくれまして。「資料をブラシュアップして、データももう少し増やして発表してみようじゃないか」と、折衷案を考えてくれました。

僕のリーダーへの伝え方が、言葉足らずだったのかもしれない。でも自分なりに納得できるデータだったのです。納得するということが僕にとっては大切なことで。新製品の開発も、できれば自分で試して納得するという姿勢で、取り組みたかった。

●これは上司が正しかった。

『NONIO』の開発に話しを戻すと、想定した20〜30代の女性のフルーツのトレンドは、パイナップルやラ・フランス等の洋梨類とか、ライトな甘さだと。ではミントをベースにこれらのフルーツを乗せて香味を作る時、どこまでミントの味を出すか。フルーツとミントのバランスが、開発では一番難航した点でした。

今の女性にはミントの味わいよりも、パイナップルや洋梨類やピーチ等の甘さが、はっきりわかるハミガキのほうが、ウケるんじゃないか。フルーツの味を強く出したい。

「製品のターゲットとなる年齢層と、僕らは同じだ。自分の感性を信じてやってみたらいいんじゃないか」と、僕の考えに新製品開発のチームリーダーも応援してくれました。

「でもね、三田くん、うちには膨大に蓄積されたミントに関する技術がある。それを生かしたものにしたい」

上司はフルーツの香味を強く打ち出したいという僕の提案に疑問を唱えました。

「フルーツの味を強く感じても、それは一瞬で持続はしないよ」

確かに口臭を予防するこのハミガキにおいて、口の中でスーッとする感じが持続することは、大事なファクターです。

「3年間、品質を保持しなければならないという社内のルールを、考慮しなくてはいけない。フルーツの味を強調すると、3年間同じ味を保つことはできないよ」

本当にそうなのかな……上司の言葉に僕は納得できなくて。フルーツの香味を強くした自分のオリジナルと、上司の意見を取り入れたものと同時並行でテストをしたんです。3ヶ月6ヶ月と追って行った時、確かに僕のオリジナルは味わいがなくなっていった。ミントを強く生かしたものは香味がしっかり出ていて、同じ味が持続できている。これは上司の意見が正しかったと納得しました。

製品は完成段階を迎えましたが、この製品は本当に20〜30代にウケるのか、この香味を使えば、口臭の不安を予防できるのか。

「このハミガキの効果を検証したい?」

上司は少し首を傾げました。口臭の不安の予防のような人の情緒に結びつくものは検証が難しい。でも、自分たちが仮説を立て製品化したものが、果たして納得できる評価を得られるのだろうか。

「検証に関してはまず、社内の調査部門にお願いをします」

女性は柔軟剤等の香りに敏感で、その分野の研究はされていましたから。

「柔軟剤や制汗剤は身にまとう香りだから、気持ち良さをイメージしやすいが、ハミガキの香味は、そこまでイメージできないんじゃないか」と言いつつも、上司は自由にやらせてくれました。

社内の過去の蓄積を参考に、“スーとしましたか”“どういう気持ちになりましたか”等々、形容詞的な細かい質問項目をたくさん用意して。モニターの方に使ってもらい、感覚に関するアンケートの回答は段階的に分け、分類して。これを使った時の自分の感情に近い写真はどれか、風景写真や暗い気持ちになる写真や、人の楽しそうな表情とかを選んでもらったりしました。検証で香味に対して自分たちが立てた仮説を、裏付けるような結果を得られました。僕が開発を担当したピンクのパッケージの『NONIOピュアリーミント』を含む、3種類の発売は今年の8月でした。

今は制汗剤の部所で、「Ban」シリーズを手がけています。まず部所に置かれたバイクマシーンで体を動かし、自らかいた汗で研究し、検証していく。そんな研究開発の基本を繰り返しているところです。

えっ、今手に持っている『NONIO』を資料としていただけないかって。実は、売れ行き好調で在庫が足りなくて、僕もサンプルが手に入らないんですよ。申し訳ありません」

取材・文/根岸康雄